59
中川さんは「早くベッドに行こうや。」と優しく私を誘った。
中川さんはほんとに女体が好きな方らしく、私のカラダを撫でまわし、たくさん愛撫をした。
仰向けに寝っ転がる中川さんの顔の上に跨るように言われ、シックスナインの体勢にさせられた。
口での愛撫がそれはそれは長かった。
クリトリスを責められると割と早くイってしまう私は何度も「イク…もうイッちゃいます」と訴えた。
中川さんはその都度口を離すか、その場所を責めるのをやめて、私がイかないようにコントロールをした。
私はそれが苦痛でたまらなかった。
イカせてくれよー!
寸止めを何度も味わされる苦痛。
それが怒りにも変わりそうになっていた。
「中川さん…もう…イキたいです…。」
いつの間にか懇願していた。
「お?そうかそうか。そうやな。」
体勢を変えて私をベッドに寝かせた。
股を開かせて顔をうずめる。
けっして上手いとはいえないクンニリングス。
でも中川さんの執拗な口での愛撫に私は快感を覚えた。
「あぁ!イク!あぁ…!」
やっとイケた。
なんども寸止めをくらった私のカラダには変な痛みが残った。
クリトリスの周りが痛い。
その痛みがジンジンと広がっていくような感じだった。
「気持ちよかった?」
にやけた顔で聞く中川さん。
私はちょっとだけ怒っていた。
「…もう…いじわるですねぇ…中々イカせてくれないんだもん。」
「ごめんごめん。有里ちゃんは可愛いなぁ。」
おじいさんはご満悦だった。
今度は中川さんをベッドに寝かせる。
私はカラダを優しく撫で、舌を全身に這わせた。
「あぁ~…気持ちええなぁ…」
中川さんは目を瞑り、恍惚の表情をした。
ムクムクと大きくなるおじいさんのおちんちん。
私は舌をカラダに這わせながら右手で中川さんのおちんちんをサワサワと撫でた。
だんだんと下に降りていき、口にゆっくりと含む。
右手で玉を優しく触り、左手は口の上下を追うようにしてゆっくりと動かす。
「うあ…もうアカン…有里ちゃん、もう挿れたいわ…」
私は口と手の動きを益々ゆっくりにして意地悪に笑った。
さっきあれだけじらされたんだから、このまま言う通りにするわけないじゃん。
「…ほんまに!ほんまに頼むわ!もう…アカン…」
ニヤリと笑いながら私は口を外し、ベタベタになった口のまわりをタオルでグイと拭いた。
「しょうがないですねぇー。んふふふ。」
「…意地悪やなぁ。この!」
中川さんは笑いながら空中で私をコンと叩くマネをした。
私はちょっと仕返しが出来たことで気分が良くなっていた。
コンドームをつけて上に跨り、ゆっくりと挿入する。
中川さんのおちんちんはそれほど勃起力がなく、すぐに少しだけフニャっとしてしまう。
そのフニャっとしてしまったおちんちんが膣内でまたムニムニと固くなってきた。
私はゆっくりと上下や前後に動いた。
こういう人はあまり激しく動くとすぐに外れてしまうか小さくなってしまうかのどちらかだ。
私はこの2か月半でこういうことを学んだのだ。
「うぁぁ…はぁぁ…」
中川さんは溜息のような小さな声をだしていた。
「気持ちええわぁ…たまらんわぁ…」
私のおっぱいを触りながら中川さんは「たまらん」と言った。
私は中川さんの上に乗りながら「それはよかったなぁ」と淡々と思っていた。
私にはSEXの快感はないけれど、中川さんが「たまらん」のならそれが一番だと思った。
「有里ちゃん…イクわ…」
中川さんは宣言してからすぐに静かにイッた。
「うぅ…はぁぁ…」
しばらくそのままの姿勢で落ち着くのを待つ。
この時跨りながら、タオルで相手のカラダや顔についた汗を拭いてあげると大抵の男の人は喜んだ。
私は中川さんにもそれをやってあげた。
案の定中川さんは「有里ちゃんは優しいなぁ。」と喜んだ。
ゆっくりとコンドームが外れないように抑えながらおちんちんを外す。
やっぱりおじいさんだ。
精子の量が少ない。
綺麗に拭いてあげて上にタオルをかけてあげる。
「寒くないですか?」
SEXの後はベタベタしたくない派の人もいれば、すぐにまたベタベタしたい派の人もいる。
中川さんがどっち派の人なのかわからないので、少しだけ顔を近づけて寒くないか?と聞いた。
「…うん。寒くないで。有里ちゃん。こっちおいでぇな。」
中川さんはベタベタしたい派の人だったようだ。
「はい。」
私は中川さんの隣にゴロンと寝っ転がった。
中川さんは私に腕枕をしてくれた。
「有里ちゃんは…どうしてこういう店で働いてるんや?」
この質問は数え切れないほどされてきた。
ただの興味本位で聞いてくる人もいれば、本気で心配して聞いてくる人もいる。
私にとってはどちらも大差ないことなんだけど。
中川さんがどういうつもりでそれを聞いてきたのかはわからなかったけど、私はいつも通りの答えをそのまま言った。
「まぁお金を返さなきゃならないような感じで…。」
私はだいたい「てへへ」という感じで笑いながらこの言葉をよく言っていた。
これを言うとだいたい「連帯保証人ってこと?」や「どういうことや?」や「そうなんや。幾らくらいなん?」や「大変やなぁ」なんかの答えが返ってきた。
「…そうかぁ。頑張りやぁ。」
「えへへ。はい。」
中川さんは「頑張りやぁ」派だった。
「わしも応援するしなぁ。…有里ちゃんとこ通うわ。ええ子やな。」
この答えは初めてだった。
内容を詳細に聞くでもなく、ただ「応援する。通う。」と言ってくれた。
さすがベテラン客だと思った。
「ありがとうございます。すっごく嬉しい!…ただですねぇ…。」
私は明日でこの店に出るのは最後だと告げた。
少しだけ躊躇しながら。
「…そうかぁ。で?次のお店決まってるんやろ?」
「…あはは…えーと…はい。」
指名をしてくれる信用できそうなお客さん何人かには次の店のことを教えていた。
でも中川さんは指名とはいえ今日初めて会った方だ。
教えていいもんかどうか…
「大丈夫やで。誰にも言わへんしな。有里ちゃんのこと応援したいだけや。」
中川さんはベテラン客だ。
お店間の微妙なこともきっとわかってるはず。
「…シャトークイーンってご存知ですか?」
「おう。知っとるよ。あのシルクロード沿いにある店やろ?」
さすが。
わかってらっしゃる。
「行ったことはないねんけどな。いつから行くんや?」
「…いや、まだ決まってません。行くことは決まってるんですけど日にちはこっちを辞めてからってことで…」
「そうかー。じゃあTELして聞くわな。絶対行くから。な?」
「シャトークイーン」は「花」よりもだいぶ高い店だ。
指名のお客さん何人かには店を移動することを言ったけど、ほんとに来てくれる人がどれだけいるだろうか。
でもいいんだ。
一瞬でも「行こう!」と思ってくれただけでもすごいことだ。
「はい!お待ちしてますね!ほんとに嬉しいです!」
中川さんはニコニコしながら「うんうん」と頷いた。
「こっちこそ有里ちゃんみたいな子ぉに会えて嬉しいわぁ。ありがとうなぁ。」
この仕事について何度お礼を言われただろう。
もちろん嫌なこともあったし、横柄なお客さんもいた。
でも「ありがとう」や「よかったわぁ」と言われることの方が断然多かった。
こうやって「ありがとうなぁ」と言われる時が一番嬉しかった。
ソープランドって…
すごい所なんだなぁ…
控室では女性たちがいろんな問題を抱えながら過ごしているし、ボーイさんや店長たちも訳ありな人が多いのは事実だ。
でも一旦こうやって個室に入れば男性と女性、一対一の時間が始まる。
SEXという行為を主にした時間だけど、きっと裸になって触れ合うことが心を柔らかくしているんじゃないかと思う。
個室で裸になって過ごす。
外ではなかなか言えないことがここでは言える。
私は「心を緩めてあげられるようなソープ嬢になりたい」と思い始めていた。
そうなるにはどうしたらいいかなんてまるでわからなかったけど。
「ありがとうございました!」
階段の下で中川さんを見送る。
「うん。またね。」
中川さんは私の手をギュッと握ってブンブンと子供みたいに振った。
ニコニコしながら帰って行く中川さん。
私はなんとなく気持ちが和らいでいた。
「花」を去る時間が少しずつ迫って来る。
最後までちゃんとやろう…
ここをちゃんとやらなきゃ控室にいる女性たちと変わらなくなってしまう。
いつだってああなれるんだ。
いつも隣り合わせにあるんだ。あの姿が。
私は死ぬかもしれないんだ。
その覚悟で来たんだからせめて最後くらいかっこよくしたい。
「…ちゃんとやろう…」
何度も自分に言い聞かせていた。
つづく。
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