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「有里さん。有里さん。」
控室のスピーカーから呼び出しの声が聞こえる。
「はい。」
「ご指名です。スタンバイお願いします。」
この控室に居たくないと思っていた私は、この呼び出しを喜んだ。
忍さんは最初の一時間くらいはおどおどとした態度で引きつった笑いを浮かべていたけど、おねえさん達みんなが優しく接するとすぐに信じられないくらいふてぶてしい態度に変わって行った。
今は一番隅の席でゴロゴロと寝っ転がりながら漫画を読んでいる。
麗さんは出勤してからすぐに指名のお客さんが来て、まだ控室に戻ってきていなかった。
フリーのお客さんより指名のお客さんの方が緊張感が少ない。
もちろんこれから始まる時間への緊張感はあるし、指名とはいえ顔を見るまで誰かはわからないからドキドキはする。
「あと2日。あと2日。がんばれー…」
ブツブツと小声で言いながら階段の下で軽くジャンプをする。
「こんにちわー。んふふふ。」
気付くとそこには優しそうなおじいちゃんの顔があった。
「うわっ!びっくりした!!あっ!いらっしゃいませ!すいません!!」
足音がまるで聞こえなかった。
小さくジャンプしているところを見られてしまった。
「有里ちゃんやろ?」
見たことない顔。
お会いした記憶がないだけなのか?
ずっとニコニコと笑っている顔。
声も優しく、柔らかい雰囲気のおじいちゃんだった。
歳は65歳~70歳くらい。
綺麗な白いシャツにきちんとネクタイを締めて薄い茶色のベストを着ている。
ズボンはグレーの品の良い感じのものだった。
清潔感のある優しそうなおじいちゃん。
そんな感じの男性だった。
「はい。有里です。すいません…なんだか足音が聞こえなくて…」
恥ずかしかった。
そして見覚えのない顔なのに指名がついていることが不思議だった。
「二階?」
そのおじいさんが上を指差す。
「あ!そうですそうです!こちらへどうぞ!」
慌てて案内する。
おじいさんは私の腰を自然に抱いてぴったりとくっついてきた。
「有里ちゃん、可愛いなぁ。」
ニコニコ笑いながら顔を近づけて囁くおじいさん。
「え?あはは…ありがとうございます。」
もうおじいさんが来ても驚かなくなっていた。
いくつになっても男性は男性なのだ。
個室に入り三つ指をつく。
「有里です。よろしくお願いします。」
お店に来た当初よりはだいぶ自然にこの挨拶ができるようになった。
「中川です。よろしくね。」
おじいさんは優しい声で自分の名前を言った。
お茶を出し、床にペタンと座る。
「え?有里ちゃん、こっち座りぃな。」
私はお客さんに言われない限り、いつもベッドには座らず床にペタンと座った。
私なりの気遣いもあったけど(すぐにドスンと隣に座るのはなんだか失礼な気がした)
それを見たお客さんがどんな反応をするのか見たいからだった。
「そんな床に座ったらお尻痛いやろ?それに女の子が冷やしたらあかんわ。こっち来ぃ。」
優しい。
この中川さんは優しい方だ。
「ありがとうございます。失礼します。」
中川さんは隣に座った私の腰に手をまわした。
お茶を飲みながらもずっと私の腰回りを撫でている。
「…えーと…中川さんは…このお店は…」
もしかしたら前についているお客さんだったかもしれないという思いが、私の言葉をしどろもどろにさせた。
私、忘れてるのかなぁ…
いや、そんなことはないと思うけど…
「初めてなんや。ここは。」
あ!やっぱり!
あーよかったあ…
「そーなんですねぇー。でぇ…私のことは…」
聞いていいのかどうかもわからない。
初めてのことだったから。
「ほら、あいつや。龍宮のあいつ。あれから有里ちゃんのこと聞いててなぁ。」
龍宮のあいつ…?
あーーー!!
龍宮御殿の駐車場の!
あのヒゲのおじさん!!
ほんとに紹介してくれたんだ!!
おじいさんは龍宮のおじさんとはもう15年来の知り合いだと教えてくれた。
昔、もっと雄琴に活気があって自分ももっと若かったから頻繁に通っていたと言った。
「昔は行列が出来てたんやでー。店の入り口に入れなくて車の行列ができてたんや。」
雄琴村は昔はもっとたくさんの店があって、お客さんもたくさん来ていたらしい。
これは昔からいる人がみんな口を揃えて言う話しだった。
「行列って!すごいですね!みんな待つってことですよね?」
ソープランドに行列ができるって…
そんなことあるんだ。
「待つわぁ。そりゃ待つわぁ。そわそわしながらなぁ。あははは。」
「じゃあ中川さんはこの辺のお店は大体知ってるんですか?たくさんの店に行ったんじゃないですか?」
きっと雄琴村で働くたくさんの女性を見てきたんだろう。
聞きたい。
そういう話し、もっと聞きたい。
「まぁでも、気に入った女性が出来るとずっとその子に入るんよ。だからそんなにお店は知らないんよ。やっぱり気に入って娘と一緒に過ごしたいやんか。」
お客さんはいろんなタイプの方がいる。
いつも違う女の子と楽しみたい方もいれば、中川さんみたいに気に入った女の子に何度も何度も通う方もいる。
お店の開拓が好きな方もいるし各店の評判の娘を制覇するのが好きな方もいる。
「ちょっとぽっちゃりしてる子ぉが好きなんや。あとは性格やな。優しい子ぉやないとなぁ。有里ちゃんはバッチリや。」
中川さんは私をギュッと抱き寄せた。
「え?!ほんとですか?ありがとうございます!!」
たくさんのソープ嬢と出会って来たであろう中川さん。
マットだってたくさん受けてきたんだ。
わー…
緊張するー…
私、大丈夫かな…
私は長年雄琴村に通っているベテランのお客さんを前に不安になっていた。
「私…まだまだマット慣れてないんですよ。もうほんっとへたっぴだったらごめんなさい!どこか直した方がいいところがあったら教えてください!お願いします!!」
正直に言うしかなかった。
そして何か教えてもらえるならなんでも言ってもらいたいと思っていた。
「有里ちゃんは正直やなぁー。ほんまにいい子やなぁ。マット好きやけどな、そんなん気にせぇへんでいいんやで。一生懸命やってくれるのが嬉しいんやから。」
中川さんは「上手い下手とかやなくて、一生懸命かどうかがまず大切やろ?」と言った。
お客さんがここソープランドに求めてるものってそういうことなのかなぁ…と少し思った。
中川さんは私にずーっとベタベタくっついていた。
必ずどこかを触っていた。
でもそれが別に嫌でもなんでもなかった。
ほんとに女の人が好きなんだなーくらいな感じだった。
カラダを洗ってお風呂に入る。
潜望鏡は「それはええよ。」と言ってやらせなかった。
たぶん体勢がきついんだと思う。
いよいよマット。
私は緊張していた。
「一生懸命が大切やろ?」と言われたけど…
やっぱり上手いと思われたいし、満足して欲しい。
一生懸命だけど下手だったらきっと嫌だろうし。
「どうぞー。あーなんか緊張しますよー。」
お客さんのベテラン、中川さんに上手いと言われたい。
そんな思いが緊張感を増長させていた。
「んふふふ。なんで緊張すんねん。おかしな子ぉやなぁ。」
中川さんは我が子を見るようなまなざしを私に向けてから、ゴロンと慣れた様子でマットにうつ伏せになった。
「始めますよぉ~!」
テストを受けるような心境だった。
これに合格できなければ私は落ち込むだろう。
丁寧にローションをカラダに垂らす。
マットのテストのスタートだ。
私は詩織さんに教えられたことと、今までの僅かな経験から得られた自分なりのものを懸命に中川さんのカラダに施した。
「あぁ~…気持ちええわぁ~…」
中川さんが目をつぶりながら呟いた。
よしっ!!
とりあえず呟かせた!!
心の中でガッツポーズをとる。
仰向けに変える。
クルンと綺麗にまわすことに成功。
「上手いやんか。有里ちゃん。」
中川さんは私の顔を見てニヤリと笑った。
「んふふふ。そうですか?まだまだです。」
私もニヤリと笑ってから仰向けでのマットをスタートさせた。
中川さんのおちんちんは半分勃っているような状態だった。
一通りの流れを終え、フェラチオに入る。
半勃ち状態のおちんちんを口にムニムニ~と含む。
「うああぁ…」
中川さんの口から声が漏れる。
私の口の中でムクムクとおちんちんが大きくなり始めた。
私はこの感触が好きだった。
口の中で反応する生き物。
ムクムクと大きくなる生き物。
私はそれを感じると、おちんちんが人格をもった生物のように感じて愛しくなる。
中川さんの人格とは違う人格をもった生き物がここに居る。
この愛しい生物をもっと愛でたくなったりする。
「あぁ…有里ちゃん…なんでそんなに上手いんや…?もう…ええわ…イってまうわ…」
中川さんは私のフェラチオを制した。
そして「ベッドでしたいからここではせんでええよ。」と言った。
カラダに丁寧にシャワーをかける。
優しく撫でながらローションを落としていく。
「…どうでした…?私のマット。」
緊張しながら聞いてみる。
テストの合否がわかる時だ。
「うまくてびっくりしたわー。気持ちよかったわぁ。」
ニコニコしながら中川さんが言った。
中川さんのカラダについたローションを洗い流している私の肩をポンと優しく触った。
やった!!
とりあえず合格したみたいだ。
「あー…よかったぁ…」
これで次の店に行ける。
これで少し自信をもって次の店に行ける。
そんなことを思っていた。
つづく。
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