私のコト~私のソープ嬢時代の赤裸々自叙伝~

私の自叙伝です。雄琴ソープ嬢だった過去をできるだけ赤裸々に書いてます。

57

 

こみ上げる怒りをガマンすることができなかった。

誰に対する怒りなのかもよくわからなくなっていた。

 

お金を盗んだかもしれない忍さんに?

あんな姿になるまで「アレ」をやっているであろう麗さんに?

店の利益や自分の個人的な好みで女の子を利用しているように見える広田さんに?

どうにもならないこの現実に?

 

「…何で?…何でですか?なんであんな状態で麗さんを戻すんですか?

あれから体調は良くなったって言うんですか?」

 

なんとか声を荒げずに抑えながら聞いた。

 

「…あの時よりはよぉなってるんや。麗も頑張る言うてるしなぁ…。お金も必要みたいやしなぁ。」

 

またお金だ。

あそこまでボロボロなカラダを酷使してお金を稼いで何に使うっていうんだろう?

またボロボロにする物に使うんでしょ?

このままじゃ絶対に死んでしまう。

 

「死んじゃいますよ。このままじゃ死んじゃいますよ。麗さん。」

 

私のこの言葉に広田さんは笑った。

 

「あははは!有里は大袈裟やなぁー。大丈夫やって。麗も大丈夫やて言うてるしな。」

 

…ダメだ…

広田さんも麗さんもダメだ…

話しがまるで通じない。

あの現状がわかってないんだ。

 

「…忍さんは…どう言ってるんですか?…なんで戻って来たいんですか?」

 

私は広田さんと佐々木さんの態度を見て、怒りの感情が少しずつ薄れてきていた。

だんだん呆れてきていた。

 

「忍なぁ…。むこうに彼氏がおってな。その彼がまた行ってこいって言うとるらしいんや。」

 

はぁ?!

なにそれ?!

 

「…え?じゃあお金に困ってるって…彼氏に渡してるってことですか?!」

 

「まぁそういうことやろうなぁ…。元々彼氏がここに行ってこいって言うて来たんやからなぁ。」

 

私はますます呆れていた。

結局男か。

男の為に人の金も盗むってこと?

 

「…なんでそんなにお金必要なんですか?」

 

岐阜からわざわざ滋賀県に来て、しかもわざわざソープランドで働いて…

そんなにまでして彼にお金を渡して…

 

「借金やろうなぁ。忍がここに来んと返せないんやろうなぁ。」

 

…はぁ…

この「花」は男に溺れている女性ばかりだ。

そこに『アレ』まで絡んで…

カラダを張ってお金を稼いでは貢ぎ、カラダを張ってお金を稼いでは自分をボロボロにする物を手に入れる。

そしてここにいる男性は、カラダを張ってお金を稼いでくれる女性がいなければ給料が出ない。

カラダを張る理由がなんであろうと関係ないんだ。

 

「…忍さん…戻してあげた方がいいんじゃないですか?」

 

「…そうか?そう思うか?」

 

「はい。女の子、多い方がいいんじゃないですか?忍さん、まだ若いし。広田さんの方からノルマ、というか条件をつけて戻すのはどうですか?」

 

「おー。…どんな条件がええと思う?」

 

「…たとえば…次にお金を盗んだかもしれないと思われるようなことがあったらすぐに辞めてもらうーとか。あとはいついつまでに指名を何本かとらなかったら辞めてもらうーとか。どうですか?」

 

私は何を言ってるんだろう?

こんな言葉を言えるような立場じゃないのに。

どうして私がこんなアドバイスをしているんだろう?

なにを偉そうに…

私は心の中で自分に悪態をついていた。

でも、少しでも忍さんが真面目に仕事をして、今までの名誉を挽回して欲しいと思っていた。

それがたとえ男の為だとしても。

 

「おー!それいいなぁ。そうしよう!」

 

広田さんが乗り気になった。

 

「麗さん、ほんとに明日から戻って来るんですか?」

 

嬉しそうだった広田さんの顔が少し曇る。

 

「…おう。戻ってくるで!もうお客さんから明日の予約も入ってるしな。2本も入ってるんや。」

 

呆れた。

呆れるを通り越していた。

 

「…おねえさん達、ほんとに心配してますよ。警察…もし来たらどうするんですか?」

 

『警察』という言葉を広田さんに向かって初めて口にした。

『アレ』についてはみんな広田さんに言わずにいたから。

言っても無駄だと、しらばっくれるだけだと思っているから。

 

「警察?!なんでそんなんが来るんや?おかしなことを言うなやー。」

 

やっぱり…

 

「麗さん…ほんとに大丈夫なんですか?検査、ちゃんとやってるんですよね?」

 

どうせ辞める身だ。

こうなったらとことん詰め寄ってやろう。

 

「やってるに決まってるやろー。やらな店に入れないんやから。」

 

広田さんは焦る様子もなく、ただただ普通だった。

 

「…そうですか。でも、またあんな感じやったらみんな困りますよ。控室、ずっとピリピリしてましたから。麗さんが来た時。」

 

肚が座ったからか、私の口からはきつい口調できつい言葉が出てきていた。

 

「そうやな。うん。麗にはちゃんと言うとくわ。だから…有里。頼むわな。」

 

広田さんは私に拝むような仕草をした。

 

ちゃんと言っておくって何をだよ。

頼むって何をだよ。

私はもうすぐ辞めるんだよ。

 

 

心の中でそんなことを思っていた。

 

 

次の日。

出勤時間にお店に行くと、広田さんも田之倉さんもバタバタと動き回っていた。

 

あー…

麗さんが来るのねーはいはい。

 

私はその様子に驚きもせず呆れて見ていた。

 

「有里ちゃん、おはよう。聞いた?」

 

先に出勤していたたまきさんが私に嫌な顔をしながら話しかけてきた。

 

「え?麗さんのことですか?」

 

私はサラッと答えた。

 

「あ、やっぱり知ってたんや。あと…」

 

たまきさんが何かを言いかけたその時。

後ろから「おはようございます。」の声が聞こえた。

 

「あ、おはよう…」

 

たまきさんが小さな声で返事をした。

後ろを振り返るとそこには忍さんの姿があった。

 

「忍さん!」

 

まさか昨日の今日で戻って来るとは思っていなかった。

忍さんの顔をよく見ると目の周りには薄い痣のようなものがあり、ファンデーションを何度も塗って目立たないようにしているようだった。

 

ぼさぼさの髪。

おどおどとした態度。

 

ここを出て行った時の忍さんは華やかに綺麗に身なりを整えていたのに。

 

「…有里ちゃん…久しぶりぃ。」

 

引きつった笑いを浮かべながら忍さんは私に挨拶をした。

 

「…忍さん…」

 

私は何も言えなくなっていた。

帰ってきたら一回は怒ってやろうなんて思ってたのに、忍さんのその姿を見たらなにも言えなかった。

 

「…おかえりなさい。これ…大丈夫なんですか?」

 

私は忍さんの目の周りの痣に触れた。

 

「あっ!うん。大丈夫大丈夫。なんでもないねん。」

 

忍さんはサッと私の手を払いのけ、すぐに顔をそむけた。

 

「今日からまたよろしく。じゃ、私ちょっと荷物置いてくるから!」

 

目の周りを見られないように隠しながら、忍さんは急いで階段のほうに行ってしまった。

 

「…殴られたんやな…男か…。」

 

たまきさんが小さな声で冷静に言った。

 

「そうでしょうねぇ。」

 

私は冷静な声で答えた。

 

「…地獄やなぁ…ほんま、抜けられんのよなぁ…」

 

実感のこもった口調。

たまきさん、貴女も…なんですか?

 

「忍、来たか?」

 

広田さんが控室に入ってきた。

 

「あー…はい。今来ました。」

 

「そうか。おーい!入れー!」

 

広田さんは廊下に向かって大きな声で言った。

ひょこっと顔をだしたのは麗さんだった。

 

「…おはようございます。また…よろしくお願いします!」

 

はにかみながら挨拶をする麗さん。

相変わらずかわいい顔をしていた。

そして相変わらずすごく細いカラダをしていた。

ノースリーブのワンピースからは枝のように細い腕がのびていて、両腕には相変わらずカラフルな数本のシュシュをつけていた。

 

「おはようございます。麗さん、また痩せたんじゃないですか?」

 

私のこの言葉に麗さんは少しビクッとなった。

 

「そんなことないでぇー!休んでる間、めっちゃ食べてたんやからー。ちょっと太ったと思ったんやけどなー。なぁ?広田さん!」

 

明るく笑いながら言う麗さん。

嘘だ。

そんなの絶対嘘だ。

 

「そうやなー。前よりちょっとふっくらしたように思えるけどなぁ。」

 

「なぁ?」

 

私はますます呆れていた。

一刻も早くこの場所から立ち去りたいと思い始めていた。

この場所にこれ以上いてはダメだ。

 

6月が終わるまであと2日。

自分で決めたことだ。

あと2日はここできちんとやることを全うしよう。

私を拾ってくれたのはこの場所だし、たくさん助けられた事も事実なんだから。

 

 

あと2日。

あとたった2日だ。

 

自分に何度も言い聞かせ、その日の仕事が始まった。。。

 

 

つづく。

 

 

続きはこちら↓

58 - 私のコト

 

 

はじめから読みたい方はこちら↓

はじめに。 - 私のコト