私のコト~私のソープ嬢時代の赤裸々自叙伝~

私の自叙伝です。雄琴ソープ嬢だった過去をできるだけ赤裸々に書いてます。

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「あのさ…」

 

「うん?なに?」

 

「私、一人暮らし始めたばっかりやねんけどさ…」

 

私は自分の口から出る言葉を制御できないでいた。

この後の言葉は言うべきじゃないと思いながらも自分の口から出る言葉を止められなかった。

 

「…今度家に遊びに来ない?」

 

言ってしまった。

まだお店に来るのも二回目のお客さん。

ほんとはどんな人かもわからないのに。

 

「私ゴハン作るから。どう?」

 

ゴハンまで作るって言いだしてる。

どうした?私。

 

「え?!ほんま?!行く!ほんまに?!いいの?!」

 

小林さんは大喜びだった。

ものすごく嬉しそうにしている小林さんを見て、私まで嬉しくなっていた。

 

「うん。ゴハン何がええかな?」

 

ワクワクしていた。

誰かの為にゴハンを作ることに。

『自分で整えた自分の部屋に人を招く』なんてことが実現しそうなことに。

 

「なんでもええ!なんでも食べるから!有里ちゃんが作ってくれたものならなんでも食べる!」

 

無邪気に喜ぶ姿が可愛かった。

そして毎日緊張している私のカラダと心がすっと楽になるような感覚があった。

 

「いつがいい?」

 

「いつならええの?!」

 

話しはどんどん進んだ。

私は自分の携帯番号をなんの躊躇もなく小林さんに教えた。

 

「じゃ、来週の火曜日。小林さんの仕事が終わってから家に向かうってことで!」

 

「うん!絶対早く仕事終わらせる!めっちゃ急いで行く!!」

 

「んふふ。気をつけて来なあかんでー!」

 

楽しい。

そして楽しみができた。

久しぶりにワクワクする時間を過ごせたことが嬉しかった。

 

90分あっという間だった。

 

「じゃ、また。」

「うん!また!」

 

見送った階段の下で小声で言い合う。

ニコニコしながら小林さんはまた私に握手を求めてきた。

差し出された右手を私は笑いながら両手でギュッと握った。

 

「うん。」

 

小林さんは一回頷いてから握手をした手を離した。

 

見送り私に廊下を歩きながらずっとバイバイをする小林さん。

私も姿が見えなくなるまでずっとバイバイをした。

 

その日から毎日が少し楽しくなったような気がした。

 

 

 

「花」を辞めるつもりの日まであと数日。

まだ私は辞めることを言い出せずにいた。

いや、厳密に言うと言わずにいた。

 

 

「有里。ちょっと。」

 

控室に広田さんが顔をだして私を呼んだ。

 

「はい?」

 

私は辞めることをおねえさん達の誰にも言ってない。

バレるはずないと思いながらもドキドキしながら広田さんの後について行った。

 

「有里。…忍がな、戻って来たい言うとるんや。」

 

え?!

忍さんが?!

 

「え…?忍さんの方から連絡があったんですか?!」

 

一泊で岐阜に帰ると言って出て行ったきり何の連絡もなく、広田さんが連絡をしてもつながらなかった忍さんが…

 

「おととい一回連絡があってなぁ。どうしたもんか考えるわ言うておいたんやけど、昨日もういっぺん連絡がきてな。戻って来たい言うんよ。」

 

…お金を盗んだかもしれない人だ。

そして何の連絡もよこさずにいた人だ。

 

「で…どうするんですか?」

 

「有里は…どう思う?」

 

どう思うって…

私に聞かれても…

それに私はもうすぐここを辞める人間だ。

そんな私にどうこう言う資格はないし、私に聞くことでもないのに。

 

「えー…どうして私に聞くんですか?」

 

私のその質問に広田さんはびっくりしたような顔をしてこう言った。

 

「店のナンバー1に聞くのは普通や。来月から部屋持ちににもなるしなぁ。」

 

え?!

ナンバー1?

部屋持ち?!

え?!

私が?!

 

「…へ?…え…だって、まだ今月後数日残ってますよね…?まだそんなのわかんないんじゃないんですか…?」

 

明穂さんだって詩織さんだって指名はとっている。

まだ数日あるから誰がナンバー1になるかなんてわからないことなのに。

 

「明穂は明日からお休みになるしな。詩織やてそんなに指名とってないんや。

ダントツで有里がナンバー1やで。」

 

広田さんはいたって普通の顔でそう言った。

喜んでるようでもなく、ただ事実を伝えているだけのような雰囲気だった。

 

「あ…そう…なんですか…へぇー…」

 

あまりにも普通な感じの広田さんを目の前にして、私は喜ぶでもなくただ返事をしていた。

 

「でな。どうしたらええと思う?」

 

フロントには佐々木さんがしれっとした態度で座っている。

 

「…戻って来たいなら戻してあげたらええんやないですか?」

 

冷めた口調で佐々木さんが言った。

 

「そういうわけにもいかんやろー。女の子のお金もとったかもしれんのにー。」

 

じゃあ麗さんはどうすんだよ!と心の中で思っていた。

金とったかもしれないヤツはダメで「アレ」やってるかもしれないヤツはいいのか?

 

「…忍さんかどうかはちゃんとわかってないんですよね?証拠もないですよね?」

 

「まぁ…そうやけど…」

 

ブツブツ言う広田さん。

私はどう答えるか迷っていた。

 

「広田さん…麗さんは?どうするんですか?戻って来るんですか?」

 

私はガマンができずに聞いてしまった。

広田さんが麗さんのことをどう思っててどうするつもりなのかちゃんと聞いたことは一度もなかった。

 

「え?!…麗…な。麗は…あれや、明日から戻って来るわ。」

 

広田さんは多少しどろもどろになりながらそう答えた。

私はその広田さんの返事に怒りを覚えた。

忍さんを戻すのには躊躇して麗さんはすぐに戻す。

そんなのない!

 

「はぁ?!それ、どういうことですか?!おかしいと思わないんですか?誰がどう見たって麗さんの様子はおかしいです!なんで?!」

 

気付くと私は声を荒げていた。

怒りと悲しみと切なさとやるせなさでカラダが震えていた。

声を荒げながら涙を流していた。

 

「…有里…?」

 

広田さんは私のその姿をみて戸惑っていた。

 

 

つづく。

 

 

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57 - 私のコト

 

 

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はじめに。 - 私のコト