私のコト~私のソープ嬢時代の赤裸々自叙伝~

私の自叙伝です。雄琴ソープ嬢だった過去をできるだけ赤裸々に書いてます。

 

閉店時間。

片づけを終えて控室に戻ると、原さんがテレビを見ながら待っていてくれた。

 

「すいません!遅くなっちゃって!」

「ん?大丈夫やでー。もうええの?」

「はい。もう大丈夫です!」

 

今日は一日落ち着かなかった。

原さんが言ったことが頭から離れなかった。

 

 

「有里ちゃんはここにいる子ぉやない。」

 

 

私はこの「花」に最後までいるもんだと思ってたし、ここでまずは“部屋持ち”になってその後はナンバー1になるんだ!と思っていた。

 

それが…

そんなことを言われるなんて…

 

 

「お?原と有里やないかぁー。」

 

控室に田之倉さんが入ってきた。

 

「なんや?どっか行くんか?」

 

相変わらず馴れ馴れしい。

私はこの馴れ馴れしさが好きではなかった。

 

「はぁ…。まぁ。」

「うん。ちょっとなー。」

 

私は曖昧に答え、原さんは軽くあしらった。

 

「なんや?トキか?」

 

田之倉さんは雄琴村の入口にあるスナックの名前を言った。

私が雄琴に来たばかりの時、早朝散歩で見たあの光景が頭をよぎった。

私はまだ『トキ』に行ったことがない。

行っちゃいけない場所のような気がして。

 

「ちゃうわー。有里ちゃんをトキには連れていかんて!まだおぼこい子ぉやんか。」

「あそこはあかんわ。じゃどこ行くん?」

 

 

『おぼこい子ぉ』と言われてしまった。

『おぼこい』とは関西弁?京都弁なのかな?で「幼い」とか「未熟な」とか「あどけない」とかそういう意味の言葉だ。

 

 そうか、私は「おぼこい」のか…

 

なんだかそう言われるのが恥ずかしかった。

 

「どこでもええやんかぁ。」

「おしえてくれてもええやんかぁ。」

「うっさいなぁ。」

 

原さんと田之倉さんのやりとりが続く。

 

「原ぁー。有里にあんまり変なこと言うなよー。」

 

田之倉さんは原さんの肩をぽんと叩いた。

 

「言うかいな!うっさいなー。行こう有里ちゃん!」

「お疲れさまでーす!」

 

原さんはほんとに迷惑そうな顔をして私を促した。

 

「今度俺も誘ってくれやー。なぁ?あははは!」

「誘わんわ!」

「そんなん言うなやー」

 

後ろで田之倉さんが何か言ってる。

ほんとにうるさくてイラついた。

 

「ほんまあいつうるさいわ。有里ちゃんのこと心配でしょうがないんやなぁ。」

「そうですか?なんかうるさくて嫌です。」

「まぁなー。悪い人やないんやけどなー」

 

タクシーに乗り込み、原さんは「ふく田までいけますか?」と運転手さんに告げた。

 

「ほんの5分位のとこやから。」

 

原さんは私に優しく言った。

 

「はい。なんか緊張しますよ。」

「なんで?あははは!」

 

これから行くお店は雄琴の中でもちょっと良いお店だと聞いた。

京都で芸者さんをやっていた方が開いたお店で、その女将さんはもうだいぶ身体が弱ってしまいもうお店にほとんど出ていないらしい。

 

「前はよく女将さんと話したんやけどなぁ…厳しいけどええ人やで。」

「へぇ…そうなんですねぇ…で?なんのお店なんですか?」

 

そんなことを話しているとお店に着いていた。

 

国道からちょっと道を入り、くねくねと細い坂道を登ったところにポツンと明かりが点いている。

 

『ふく田』と書かれた品の良い小さな看板。

素敵な日本家屋が建っている。

 

階段を数歩上がり、藍染の暖簾をくぐり、木枠の格子戸をカラカラと開ける。

黒い小さな石が綺麗に並べられた床はピカピカだった。

 

「いらっしゃい。」

 

お店に入ると正面が綺麗な一枚板のカウンターになっていた。

その奥で板前さんの調理衣を着た、細身の優しそうなおじさんがニッコリと笑っていた。

 

カウンターの左端にご夫婦らしきお客さんが座っている。

他にはまだだれもお客さんがいなかった。

 

「素敵なお店ですねぇ…」

 

お店のあちこちにはセンス良く一論差しが置いてある。

すごく居心地のよさそうな場所だ。

 

「そうやろ?ここは変なソープ嬢は来ぃへんからね。気に入らん子ぉは女将さんが追い出しちゃうからさ。あははは!」

 

「美咲ちゃん。いらっしゃい。久しぶりやねぇ。」

 

さっきカウンターの中でニッコリしていたおじさんが出てきていた。

 

「久しぶりです!」

「個室でええの?とってあるよ。」

「はい。ありがとうございます。」

「こっちどうぞ。」

 

おじさんは私にもニッコリと笑いかけてから個室に案内してくれた。

 

「はい。座ってくださいねー。お飲み物どうしますか?」

「あ、ビールで。有里ちゃんは?ビールでええ?」

「はい。ビールで。」

 

6畳ほどの綺麗な和室。

掛け軸も素敵でお花も上品に飾られていた。

 

「はい。有里ちゃんっていうの?美咲ちゃんの後輩?」

 

おじさんが優しく聞いてきた。

 

「はい!有里です。よろしくお願いします!」

 

「わー可愛らしい子ぉやないの。観音様みたいな子ぉやねぇ、有里ちゃんは。」

 

ニコニコしながらそんなことを言われた。

 

「あははは!観音様かぁー。この子ね、まだ入ってそんなに経ってないねん。でな、こういう業界も初めてなんやて。店長よろしくなぁ。」

 

原さんはそのおじさんを店長と呼んだ。

 

「あらあらーそうかぁ。こちらこそよろしくなぁ。あ!ビールね。ビール先持ってきますねー。」

 

店長はいそいそと個室から出て言った。

 

「なんか…すごい店ですねぇ…」

「そう?まぁこの辺ではあんまりないわなぁ。ここはもともとしゃぶしゃぶとかイノシシ鍋とかの店やねん。でも他のメニューもいろいろあるし、それにちゃんと板前さんが作ってるから美味しいでぇ。あ、あの店長も板前さんやで。」

 

メニューをみると魅力的なものがたくさん並んでいる。

 

「値段もそんなに高くないしな。今日は食べよう!」

 

原さんはすごく機嫌がよかった。

 

「はい!食べましょう!」

 

ビールが運ばれてきて頼んだ料理が数品テーブルに並ぶ。

見事に全てが美味しかった。

 

「でな、有里ちゃん。今日の話しやねんけど…」

 

原さんが話し出す。

「来た!」と一瞬背筋が伸びる。

 

雄琴に来たばっかりの頃な、よくここで飲んでたんや。

で、ここで知り合ったのがさっき言ってたシャトークイーンの店長。

そんなに何回も飲んだわけやないんやけど、ええ人なんよ。

相談にも乗ってもらったりしてな。」

 

その店長さんはここのお店の二階に住んでいて、お店が終わるとここで毎日飲んでいる

らしい。

原さんはなぜかその店長さんに私を紹介したくなったんだと言った。

 

「有里ちゃん。気付いてる?『花』はおばさんばっかりやろ?私も含めてな。あはは。」

 

原さんは自虐的な笑い方をした。

 

「え?いや…うーん…」

 

私は返事に困っていた。

確かに「花」はおばさんばっかりだし、それになによりみんな全然やる気がないように見えた。

毎日控室でダラダラとおしゃべりをしているし、指名をとっているおねえさんはすごく少なかった。

お客さんから「チェンジ」希望されて控室に戻ってくる姿も何度も見た。

 

*解説*お客さんは女の子が好みじゃなかったら「チェンジ」を希望することができます。でも…よっぽどのことじゃない限りなかなかチェンジされません。お客さんも勇気がなくて言えない人が多いってことでしょうねぇ。)

 

「やる気がないねん。みんなな。まぁ私もやけどな。」

 

原さんはちょっと卑屈な笑い方をした。

私はますます答えに困った。

 

「有里ちゃん頑張ってるやんか。あそこにいたらもったいないと思うねん。

まだ若いしがんばり屋やし。もっと稼げるお店に行った方がええと思うねん。な?」

 

そうなんだ…

 

原さんの一生懸命な言い方にちょっと心がぐらつく。

 

「あそこは『大衆店』やねんで。知ってた?安い金額で入れるお店。でもな、雄琴にはいろんなお店があんねんで。有里ちゃんの年齢で大衆店にいる必要ないって。」

 

ソープランドは「超高級店」「高級店」「中級店」「大衆店」と分かれる。

時間設定や料金設定が大きく異なるし、女の子の質や接客がだいぶ変わってくる。

(もちろん高級店でも接客が悪い子もいたりしますが…)

 

私がいる「花」は大衆店。

一番安い金額のお店だった。

そんなことも知らず、ただ最初に入った店、拾ってくれた店が「花」だったから私は働いていた。

 

「今日ここで会えると思うねん。だからな、ちょっと紹介するから。それでまた話しを詰めていったらええやんか。な?行く行かないは後で決めたらええし、入れるかどうかもわからんし。でもな、一回紹介しときたいんよ。」

 

原さんはすごく熱心だった。

なぜそんなことを言ってくれるのかわからなかったけど、私は嬉しくて頷いていた。

 

「はい。じゃあ…お願いします!原さん…ありがとうございます。」

 

「いやいやいや…ええんよ。ただのおせっかいやから。あははは。そうだ!有里ちゃん、桂花陳酒飲む?ボトルがあるんよー。って、まだあるかな?」

 

原さんはだいぶ前に入れた「桂花陳酒」のボトルがあるか店長さんに聞いた。

 

「え?ある?あるってー!じゃ氷とお水と一緒に持ってきてー!」

 

部屋についてる電話で注文をしてる原さんがはしゃいでいる。

 

「原さん。なんかありました?めっちゃ機嫌よくないですか?」

 

私がそう聞いた途端、原さんは顔を少し赤くした。

 

「え?あはは…いやぁ…あんな…」

「え?なんですか?なになに?」

 

原さんはタバコに火をつけながらニヤニヤと笑っている。

フーと煙を一回吐いて、タバコを持ってる方の肘をテーブルにトンとついた。

 

「結婚することになってん。」

 

 

えーーーー!!

誰とですかーーー!!

 

 

 

つづく。

 

 

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