私のコト~私のソープ嬢時代の赤裸々自叙伝~

私の自叙伝です。雄琴ソープ嬢だった過去をできるだけ赤裸々に書いてます。

 

『花』に入って一ヶ月半が過ぎようとしていた。

お店のおねえさん達も広田さんも田之倉さんも佐々木さんも猿渡さんも…

変わった人たちだけどみんないい人たちだ。

お客さんに入るときはまだめちゃくちゃ緊張するけど、でも少しだけ慣れてきた気がしている。

私を気に入ってくれる人もいるけどあんまり満足してない様子の人もいる。

 

私は相変わらず「ついたお客さん全員に満足してもらいたい。」と強く思っていたし、

「その為にはどうしたらいいか?」をいつも考えていた。

 

それが良かったのか指名の数が増えてきていた。

 

雨の日以外はだいたい毎朝自転車で琵琶湖周りを走り、公園のようなところで縄跳びなんかもやっていた。

 

痩せたくて必死だった。

 

夜の食べ吐きは続いていた。

昼間はお店のごはんとおかずをちょこっと食べて、「あとは夜に…」と空腹をグッとこらえる。

その反動で夜盛大に食べ吐きが行われる日々だった。

 

その甲斐あってか(めちゃくちゃカラダに悪いことだけど)順調に痩せてきていた。

 

『花』に入った時はK氏の元でのストレスと、K氏の飲食(主に「飲み」)に連日付き合わされたお陰で相当にむくんでいたし太っていた。

それがだんだんとスッキリしてきていた。

 

 

原さんに「実は…」と寮から出たい希望を伝えるとこんなことを教えてくれた。

 

「そうやんなぁ。そろそろかなぁと思ってたんや。でもなぁ…ソープ嬢に貸してくれるとこって少ないんやぁ。光営マンションにくる?」

 

保証人になってくれる人もいない。

収入が安定しているわけでもない。

それに急にいなくなってしまう女の子たちも結構いるらしい。

(急にいなくなっちゃうことを“飛ぶ”と言います。)

そんな『ソープ嬢』に部屋を貸してくれるオーナーさんはすごく少ない。

 

原さんは自分の住んでいる光営マンションにくるか?と聞いてきた。

 

光営マンションは雄琴村の真向かい、国道を挟んでほぼ真正面に位置するところにある大きなマンションだ。

外観はそうとう古びていた。

 

「あそこなら保証人もいらんし敷金礼金もいらんしなぁ。部屋が空いてたらすぐ住めるで。でもその変わり家賃は高いで。月10万円や。ワンルームでやで。あと部屋が暗いんよぉ。」

 

光営マンションは雄琴村のソープ嬢たちのためにあるようなマンションだった。

部屋の住人はほぼソープ嬢だ。

急に「飛んで」もいいように、毎月の家賃を高く設定していると聞いた。

 

「うーん…光営かぁ…」

 

私はどうしてもそこに住むのは嫌だった。

初めての一人暮らし。

しかもこれが最後になるかもしれない。

お金を返し終わったらどうなるかわからないんだから。

殺されるかもしれないんだから。

 

「いくつか不動産屋さん探してあげようか?」

 

原さんがそう言ってくれた。

 

「え?!そんな!いいですよ!」

 

「私も聞いてみてあげるで。」

 

いつの間にか話に加わっていた美紀さんが言う。

 

「え?!いいですよ!大変やないですか!」

 

「あー…あの不動産屋さんどうやったかなぁ。」

 

明穂さんも加わる。

 

「あの龍宮の子ぉなんやったっけ?あの子が住んでるとこ聞いてみようかなぁ。」

「あぁあの子のマンションええやんなぁ。あの国道からちょっとはいったとこやろ?」

「あとあの茶色のマンション。あそこのぉ~えーとなんやったっけ?」

 

どんどんおねえさん達が話に加わってきて、いつの間にか控室は「ソープ嬢が住めるマンション探し」の話しで盛り上がっていた。

 

その話しに全く加わってなかったのがたまきさん。

私の隣で寝そべって漫画を読んでいた。

 

たまきさんはいつもそんな感じだった。

 

ふくよかなカラダと可愛い顔立ちで優しそうな雰囲気を醸し出しているように見えるが、いつもちょっとみんなとは距離をとって斜に構えている印象があった。

 

私ともそんなに話をたくさんするような感じでもなかった。

でも、時折話すと口数は少ないけれどとても優しかった。

 

そんなたまきさんが気になり、チラッと見ていた時原さんが私に言った。

 

「まぁ有里ちゃん!ゆっくり探そうかぁー。な?」

 

結局「ソープ嬢は部屋を借りるのも大変だ」という話しになり、なんとなくその話は終ってしまった。

 

 

そうかぁ…。

一人暮らしするのもなかなか大変なんだなぁ…。

 

お金は用意できるのに借りられない。

そんなことがあるんだと知った。

 

その日の夜、閉店したお店の廊下に広田さんが歩いていたので引き止める。

 

「広田さん!お疲れさまです。あのー」

 

寮を出ようと思っていることをまだ言っていなかった。

何も決まってないけど早めに言おうと思った。

 

「おう!有里!お疲れさまー。どうした?」

 

ニコニコしながら振り返る広田さん。

なんだか言い辛さを感じる。

 

「あのぉー…実は寮を出て一人暮らしを始めようかと思ってるんですけど…」

 

そう言うと広田さんの顔がサッと曇った。

 

「え?!なんで?もう決まったんか?」

 

早口で質問がきた。

 

あれ?

なんでそんなに動揺するんだろう?

 

疑問が湧く。

 

「いや…まだ何も決まってなくて…。でも、他にもし寮に入りたい子ぉがいたら早めに言っといたほうがいいかなぁと思って…そういう意思があるってことも言っておいたほうがいいかなぁと思って。」

 

広田さんは下をむいて「うーん…」と言っている。

 

なんで?

寮をでることってそんなにダメなことなの?

早く追い出したいとか思ってもおかしくないのに。

 

その時廊下の向こうから田之倉さんが歩いてきた。

 

「おー!有里!お疲れぇー!どうした?広田のおっさん難しい顔しとるやないかー。」

 

田之倉さんと広田さんはあんまり仲がよくない。

仲が良くないというか、派閥争いみたいなことをしていると聞いた。

おねえさんたちも「広田派」と「田之倉派」がいるみたいな感じだった。

私と忍さんは広田さんがお世話をしてくれたことで「広田派」らしく、若い子を連れてきた広田さんに今軍配がちょっとだけあがっている…なんて話を聞いていた。

その状況を田之倉さんはなんとか阻止したく、今新しい子を探しまくっているらしい。

 

田之倉さんが来たことで広田さんの顔がますます険しくなった。

 

「お?どうした?」

 

無視するわけにはいかず、私は田之倉さんに正直に話した。

 

「あの…寮を出ようと思ってて…で、そのことを話してたんです。」

 

私が言うと田之倉さんの顔もサッと曇った。

 

「ん?寮をでる?うーん…そうかぁ…うーん…」

 

広田さんと田之倉さん。

二人ともが腕組みをして険しい顔をしている。

 

こんなことになるなんて思ってもなかった…。

私の申し出がそんなにいけないことだったのかと不安になった。

 

「えーと…ダメなんですか…?」

 

私はおかしなことを言っていた。

ダメなはずないのに。

 

「うーん…」

「うーん…」

 

二人は顔を見合わせて「どうする?」の表情をしていた。

 

 

 

つづく。

 

 

 

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