私のコト~私のソープ嬢時代の赤裸々自叙伝~

私の自叙伝です。雄琴ソープ嬢だった過去をできるだけ赤裸々に書いてます。

次の日の朝から、私は自転車に乗って出掛けるようになった。


朝起きて下に行くとおばちゃんが出勤している。

「おはようー!」

私はひょこっと顔を出し、元気に言う。

「あぁ!有里ちゃん!おはよう。」

優しくおばちゃんが返してくれる。

「今日も自転車で行くん?がんばり屋さんやなぁー」

自転車で毎朝出掛けるのが頑張り屋さんなのかどうかはわからない。
でも、その一言をかけてくれることが嬉しかった。



「花」に入ってから3週間が経とうとしていた。
お休みの日は相変わらず落ち着かず、行くところもさほどなく、いつも「淋しさ」や「孤独」や「不安」をヒシヒシと感じていた。

寮にも慣れてきていた。

が…

慣れてきたゆえに始まってしまった。
夜の『食べ吐き』が。


忍さんの向かいの部屋はフロントの佐々木さんの部屋だ。
佐々木さんは必ず夜中遅く部屋に戻る。

廊下の音に耳を澄ませ、忍さんも佐々木さんも部屋に戻ったことを確認してから下の台所にコッソリと行く。

炊飯器に残ったゴハンと残ったおかずをゴッソリとお皿に盛り、お水をたっぷりと用意してから狂ったように口に詰め込む。
たっぷりのお水で流し込み、どんどん胃袋に詰め込む。

もう入らない!というところまできたら、トイレに駆け込む。
トイレに駆け込む時には必ず大きめのスプーンを持ち込む。
その大きめのスプーンにトイレットペーパーをぐるぐるに巻き付け、もっと大きくする。
それをグイと口に押し込み、えづく角度を探す。

食べ吐きをやり過ぎて感覚が麻痺してしまった。
指や手を突っ込むどころではもう吐けなくなっていた。

お腹の中に少しでも食べ物が残っていたらダメだ。
太ってしまう。
スプーンをグイグイ突っ込み何度も何度も吐く。
胃の中の物を絞り出すように。


私はこれを毎晩繰り返すようになっていた。



お店は順調だった。
お姉さんたちは相変わらず優しかった。
原さんと美紀さんとは特に仲良くなっていた。

忍さんは…

…ぶくぶくと太っていった。


私はなんとなくマットのペースがつかめ、お客さんとのやりとりも少しだけ慣れてきていた。

フェラチオをする時、喉に当たるまでおちんちんを入れるとお客さんは大概喜んだ。
それができるのは食べ吐きのお陰だった。

指名のお客さんも数人できてお金も順調に貯まっていた。

数日前、私は寮の自分の部屋に小さなテレビと小さな冷蔵庫を購入した。
堅田平和堂に入っている電気屋さんで買ったものだ。
配達をお願いしたときもちろん住所を聞かれる。
私はなんの躊躇もなく「『花』っていう店の3階なんですけどー。いけます?」と言っていた。

この場所にいると、タクシーの運転手さんも近所のお店の人も、飲み屋さんの主人も、ソープ嬢が普通の職業であるような扱いを受ける。


私は「雄琴村のソープ嬢」になっていた。



自転車で走るのは気持ちいい。
昨日の夜の私の悪行(食べ吐き)を許してくれるみたいに感じる。
でも…
すぐに『空腹』という悪魔がやってくるのだ。
その悪魔に追い付かれないように、グイグイと自転車を漕ぐ。

そんなことをしても無駄なのに。


店に帰る時には必ず『龍宮御殿』の呼び込みのおじさんと話すようになっていた。
おじさんは駐車場にある小さな小屋にいつも詰めていた。


「おー、有里ちゃん!おはよー!」
「おはようございまーす!」


元気に挨拶をして、明るく話す。

「有里ちゃん、どうよー?指名増えたやろ?」
「いやぁ~、まだまだですよぉ。どうしたらいい?ですかね?どうしたら指名が増えます?」

そんな相談もちょくちょくしていた。

「有里ちゃんなら普通にしてたら指名がどんどん増えるわー。優しいからなぁ。」


優しい?
私が?
あははは…

そんなわけねーだろっ!!


私は『優しい』や『良い子』と言われるとほんの少しだけ怒りが湧くようになっていた。


毎日『食べ吐き』している私が!!
良い子なわけねーだろ!!
優しい?は?
何にも知らないくせに!!

そんな気持ちをどこかに押しやり、こう答える。


「えー、ありがとうございますぅ。そうですかねぇーあはは」


店に戻り、お店に出る準備を整える。

「おはようございまーす!」

控え室に行き、そのあとフロントに声をかける。

「佐々木さーん、おはようございまーす!」

佐々木さんが顔をあげる。
相変わらず死んだ魚のような目だ。


「あ、、おはよう。有里ちゃんは…5番で。」


今日使う部屋を聞く。


「5番ですね。はーい。」

「有里ー、おはよう!」


広田さんが声をかけてきた。


「あ、おはようございます。」

「有里、指名順調やなぁー!このままいけば“部屋持ち”になれるでー!わははは!」


広田さんはご機嫌でそう言った。

「何言ってるんですかぁ!そんなんまだまだ無理に決まってますよ!」

否定しながらもまんざらでもなかった。


『部屋持ち』とは自分専用の個室をもらえるということ。
そうなるには指名数が月に20本以上なければならない。
この『20本以上』の本数は店によって違うらしい。


今現在『部屋持ち』のお姉さんは明穂さんと詩織さんだけだ。
私が今目標にしてるのは、この『部屋持ち』だった。


「今日も頑張ろうなー!」


広田さんはいつも元気だ。


「はーい!」


一応元気に答える。


5番の個室に入り、タオルやシーツの準備をする。
タバコやお酒やコップも自分の好きな感じにセットする。


「はぁ~…」


ベッドに座ってため息をつく。

これからお店が始まる。

いつもこの時間の緊張感はすさまじい。
押し潰されそうになる。


(どうしたら自分が付いたお客さん全員に満足してもらえるんだろう…)


一人でも満足そうじゃないお客さんがいると死にたくなった。
私はやっぱりダメなんだ…と、とことんまで落ち込む。
その時間がこないように、『私はやっぱりダメなんだ』の気持ちを味あわないように、私は今日も頑張るのだ。

一人残らず満足そうに帰ってもらいたい!
そうじゃなきゃ、私は私がダメなヤツだと何度も確認してしまうから。


緊張がどんどん高まる。

今日も私は『ダメだと言わないで。お願いだから。』とドキドキしながらお客さんにつくのだ。


「どうしたらいいんだろう…」


少しだけ涙が出た。


続く。

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㉞ - 私のコト


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