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悩みに悩んだあげく、結局フードコート内のメキシコ料理屋さんのメニューを頼んだ。
タコスのような料理。
いつも自分なりの言い訳が成り立つものを選ぶ。
ほとんど野菜だから「大丈夫」
炭水化物少な目だから「大丈夫」
量がそんなに多くないから「大丈夫」
脂肪分も少な目だから「大丈夫」
いつも「○○だから、これは食べても大丈夫。」そんなことばかりが頭の中を支配していた。
その一皿の料理を買って食べる。
子連れのママたち、若い女の子のグループ、カップル…
周りの人たちはなんだか楽しそうに笑っている。
(そんなに楽しいことがあるの?本気で笑ってるの?)
チラチラと周りを見ながらそんなことを思う。
口の中に広がる野菜とサルサソースの味。
生地が美味しい。
夢中で食べるとあっという間になくなった。
…もっと食べたい…
私の中に「食べ吐き」の衝動がやってくる。
もっともっと食べ物を私の中に詰め込みたい。
口いっぱい頬張りたい。
そしてその後全部を吐き出したい。
キョロキョロとフードコートを見渡す。
そこには私がさっきは「なしなし!」と却下したピザやパスタ、ラーメンや丼物のメニューが並ぶ。
…食べたい…
…そして吐きたい…
でもここは公共の場所。
みんなが出入りするトイレで吐く勇気は私にはなかった。
その衝動をグッとこらえる。
握りこぶしをギュッと握って、「グゥ~…」と声を出しながら口をグッとつぐんで。
「よしっ!」
席を立ち、他の場所を見てまわる決心をする。
今日の「食べ吐き回避」はなんとか成功したようだった。
どのお店を見ても全く楽しくない。
お店で使う下着や、お店で着たら映えるだろうワンピースをなんとか購入する。
私服や私物を買う気持ちには一切ならなかった。
結局私は映画館に行き、特に観たいとも思わない映画のチケットを買い席に着いた。
帰ろうかな…
映画が終わるともう夕方だった。
バスに乗り、電車に乗り、タクシーに乗ってお店に戻る。
「いーらっしゃいませーー!」
「こちらへどーーぞーー!!」
「いい子いますよーーー!」
「どうですかーー?」
いろんなお店からボーイさんたちの声が聞こえる。
派手なネオンがチカチカとしている。
私はなんとなくホッとしている自分がいることに驚いていた。
もうすでに“私の居場所”になっているのかもしれないと思った。
「あれ?有里ちゃん。お帰りー。早いやん!」
「どやったー?楽しんだ?」
「大津行ってきたん?」
控室に顔を出すとおねえさん達が聞いてきた。
「はい!大津行ってきました。でもー大津駅からパルコって遠いんですねー。」
さっきの沈み込んでいる私はもういなかった。
いつものように明るく答えていた。
「あー!ごめん!そやったなあー!忘れとったー!」
「あーそやったそやったー!ごめんなぁー!」
美紀さんも原さんも他のおねえさん達も「ごめんごめん」とみんなが言ってくれた。
自分のガチガチに固まっていた心が、少しだけふんわりとなっているのを感じた。
「明日も休みなんやろ?ゆっくりしぃやー。」
「はい!じゃあ!」
私は元気に部屋に戻った。
期限を決めよう。
ちゃんと決めなきゃズルズルとここにいることになってしまう。
部屋に戻った瞬間、強烈にそう感じた。
今は4月の後半。
どうしよう…
少し考える。
「よし!」
私はなんの根拠もなく期限を決めた。
3月30日に、辞める。
3月30日までに、貯める。
700万円をそこまでに貯められるかどうかなんてわからない。
生活だってしていかなきゃいけないし、その分のお金もかかる。
でも、決めた。
私は少ない荷物の中からノートを取り出してその決意を書き出した。
『3月30日までに700万円貯める』
『3月30日にきっぱりとここを辞める』
パタンとノートを閉めて、買ってきたビールを開けた。
「うん。」
「よし。」
気づくと私は何度もそう言っていた。
続く。
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