私のコト~私のソープ嬢時代の赤裸々自叙伝~

私の自叙伝です。雄琴ソープ嬢だった過去をできるだけ赤裸々に書いてます。

 

期間かぁ…。

どうしようかなぁ…。

 

今すぐに期間を決めようと決意したけど、なんにも見当がつかない。

 

また漫画に目を向け始めたたまきさんの横で、私は「どうしようか?」と考え始めた。

 

 

「有里ちゃん。有里ちゃんはどうしてここの店に来たん?」

 

もう一方のとなりに座っていた原さんが話しかけてきた。

 

原さんはすごく背の高い女性だ。

多分175センチくらいある。

ウエーブがかった落ち着いた茶色の髪は、背中の真ん中あたりまで伸ばしている。

長い手足。

でも…お腹はボコボコと出ている。

八重歯が印象的な可愛い女性。

歳は32、3歳くらい。

若いころは綺麗だったんだろうなぁ…と思わせる人だった。

 

 

「あ、えーと…。」

 

私は「花」に来たいきさつを原さんに話した。

 

京都まで逃げてきたこと。

フリーペーパーの求人誌に載っているヘルスにTELをかけまくったけど、断られまくったこと。

もう後がない!と思ってかけたらソープだったこと。

比叡山坂本ってどこ?!」と戸惑ったこと。

ここに辿り着いてホッとしたこと。

 

原さんはニコニコしながら優しく聞いてくれた。

 

「そうやったんやなぁ。大変やったなぁ。」

 

うんうん。と目を見て聞いてくれる原さん。

とても人懐っこくて可愛らしい。

私はたくさん話を聞いてくれることが嬉しかった。

 

「あのぉ…。原…さん…って、なんで『原さん』なんですか?」

 

私は疑問に思ってることを聞いてみた。

みんな『たまき』や『忍』や『美紀』とかなのに…

なんで『原』なのか。

 

「あー!あはははは。そうやんなぁ。そう思うわなぁー!」

 

原さんは「そういえばそっかぁ!」な感じで笑った。

 

「私な、この店の前は『龍宮御殿』におってん。それでな、そこでの名前のまま、ここで働いてんねん。」

 

へー…。

そっかぁ…。

 

 

源氏名でお店の特色をだしているところがある。

原さんが「花」の前に在籍していたお店は「龍宮御殿」。

「花」のすぐ近くのお店だ。

そこはお店の女の子全員が『原』や『小柳』や『立花』などの綺麗な感じのする苗字だったそう。

苗字が源氏名のお店があることも「へー…そっかぁ…」だったけど、

この雄琴内でお店を変わることもあるってことにびっくりしていた。

しかもほんとにすぐ近くのお店。

 

「お店を変わるってことがあるんですねぇ…。」

 

私はつぶやくように言った。

 

「えーー!有里ちゃん!ほんまになんにも知らんのやなぁ!ここにいる全員、いろんな店を転々としてからココに辿り着いたんやでぇ!あははは!」

 

え?

そうなの?!

転々?

 

私はそんなこと全く知らないし、むしろここは私を拾ってくれたお店だから、ずっとここにいるんもんだと思っていた。

 

「有里ちゃん、まだ21やろ?う~ん…そやなぁ…」

 

原さんは何かを考えていた。

私は今日一日の情報の多さ、体験の多さにびっくりしすぎて頭が混乱していた。

 

「有里ちゃん、今日はまだ初日やもんな。まぁぼちぼちいこう。ちょっと落ち着いたら飲みにでも行かへん?まだこの辺のこと知らんやろ?」

 

原さんが私を飲みに誘ってくれた!

素直に嬉しかった。

 

「あ!はい!ぜひぜひお願いします!!」

 

みんなが優しい。

何故かわからないけど、みんなが私を気にかけてくれている。

 

「困った事あったら言うて。私でわかることは教えるから。」

「はい!」

 

 

スピーカーから声が聞こえる。

 

「有里さん、有里さん。」

 

ドキッ!

またお客さん?!

 

胸がバクバクとし始める。

 

「はい!」

 

緊張しながら答える。

 

「フロントまで来てください。」

 

ほぉ~…

お客さんじゃなかった…

 

「はい。」

 

返事をしてフロントに向かおうと立ち上がる。

 

「有里ちゃん!」

 

原さんが声をかける。

 

「はい?」

 

振り返ると原さんはこう言った。

 

「広田さんや他の人にいろんな事いわれるかもしれへん。でもな、全部有里ちゃんが決めてええことやねんからな。自分で自分を守っていくしかないんやからね。」

 

私は原さんが何を言ってるのか全くわからなかった。

 

「え?はぁ…、はい…。」

 

いろんな事を言われる?

全部自分で決める?

自分を守る?

 

みんなに優しくされてる今。

「自分を守る」なんて必要をまるで感じてなかった私は、原さんが何故そんなことを言うのかわからなかった。

 

「そのうちわかるわ。でも、今言うとくわ。」

 

原さんは私の目をジッと見ながら真剣に言った。

 

「は…はい。じゃ、ちょっと行ってきまあす。」

 

期間を決める。

お店を変えてもいい。

全部自分で決めていい。

自分の身は自分で守る。

 

いろんな事聞いちゃったなぁ…。

でも全然わかんないや。

 

そう思いながらフロントへ向かう。

 

フロント周りには広田さんと佐々木さんを含めた男性5人が集まっていた。

 

「おー、有里。まだ紹介してなかったやろ?さっき忍には紹介したんやけどなー。」

 

広田さんが大声で話し始める。

 

「ちょっとこっち行こうかー。」

 

佐々木さんだけフロントに残したまま、男性4人と私でお客さんの待合室に入る。

 

10畳ほどの部屋に、古びた赤いビロード張りのソファーが壁際にきっちり置いてある。

暗めの部屋に赤いライトが点いている。

茶色の大きめの花柄の壁紙がなんだか“エロい”。

 

 

「こっちが田之倉。この店の総支配人みたいなもんやな。」

 

広田さんが紹介を始める。

 

「おう。有里?だっけ?面白い名前つけたなぁ。よろしくなぁ。」

 

田之倉さんという男性が手を出し、握手を求めてきた。

 

「あ、はい。有里です、よろしくお願いします。」

 

歳はだいたい50歳くらい。

日に焼けた肌。

黄色のウインドブレーカーにジーパン。

白いポロシャツのボタンを開け、襟は立っていた。

金色のやや太めのネックレスを首にかけている。

そのネックレスと一緒に首に巻いている「ファイテン」の肩こり改善?の黒い輪っかが何故か田之倉さんのうさん臭さを醸し出していた。

すらりとした体つき。

顔は石田純一を崩したような感じ。

なれなれしさが「女好き」を物語っていた。

 

「有里は若いなぁー。なんでも言うてや!お前のためならなんでもするで!なんてなー!わははははは!」

 

悪い人ではなさそうだけどめっちゃ苦手なタイプだ。

でも味方にしておいた方がいい。

私はすぐにそう判断した。

 

「あぁ…、はい、あは…あはは…あは…、よろしくお願いしますぅ。」

 

愛想笑い。

とっさのことで下手すぎた。

 

「なんだ?!有里ぃ~、緊張してんのかぁ~?あんまりいい男でびっくりしたんやろぉ~?わはははは!」

 

あぁ…この人がアホでよかった…。

 

「あはは…。はい、ちょっと緊張しちゃいましたぁ…あはは…あは…。」

 

「で、こっちが猿渡(さるわたり)。ボーイや。」

 

広田さんが次の男性を紹介した。

 

「よろしくお願いします。有里さん。」

 

猿渡さんは静かに言った。

 

「はい。よろしくお願いします。」

 

猿渡さんは佐々木さんに雰囲気が似ていた。

目を一切合わせない。

目の色もグレーがかっていて生気がなかった。

ひょろりとした体躯。

黒い豊かな髪はきっちりとセットされていた。

目鼻立ちははっきりしていて、特に目は大きくて綺麗な二重だった。

 

(この人、ほんとはすごく綺麗な顔してるのに…もったいないなぁ…)

 

雰囲気が暗い。

地味に挙動不審感を漂わせている。

 

「お?猿渡!有里に惚れたか?!ダメだぞぉ~!大事な商品なんやからなぁ~!わはははは!」

 

田之倉さんがアホみたいな大声で笑う。

 

 

大事な商品。

 

その言葉にちょっとだけ不快感を感じていた。

 

「こっちは隣の店の社長や。」

 

隣の店はとくに系列店舗でもなんでもなく、ただみんな仲良しなだけのようだった。

新人の若い子が入ってきたと聞いてただ興味本位で見に来たらしい。

 

「やっとやなー!やっと『花』にも若い子ぉがきたなー!よかったなぁー。」

 

社長はことさら大げさに喜んでいるように見えた。

 

「有里ちゃん?やったっけ?頑張りやぁー。ここの店はみんな優しいでぇ。頼むわなぁ。」

 

「あぁ…はい。頑張ります!」

 

隣の店の社長に「頑張ります!」と言っている自分がなんだか面白かった。

 

 

「いやぁ~、急に若い子が二人もなんてなぁ~!よかったなぁー!」

「ほんまですねぇー!やっとですわぁ。」

「有里と忍には頑張ってもらわないとなぁ!」

「そやなぁー!俺らも頑張らへんとなぁー」

「わはははは!」

 

 

男性4人がなんだか盛り上がっている。

私はその会話を聞いてへらへらと笑っているのが精一杯だった。

 

「じゃ、有里。そういうことでな。頑張ろうな!」

 

広田さんはポンと私の肩を叩いた。

 

「あ、はい!」

 

ピッと背筋をのばして返事をした。

 

「有里はええ子やなぁ~。この子は伸びるわ。」

 

田之倉さんが低い真剣な声で言った。

 

「そやなぁ。伸びそうやな。もうちょっと痩せたらな。あはは!」

 

隣の社長が笑いながら私が一番言われたくない言葉を何気なく放つ。

 

ズキッ!

 

顔が引きつる。

あまりにも突き刺さりすぎて笑えない。

 

痩せなきゃ。

痩せなきゃ。

痩せなきゃ。

痩せなきゃ。

 

何気ない社長の一言で、私の「痩せなきゃ愛されない」モードがまた強く発動しはじめた。

 

「有里。この後もう一本入るからな!頼むで!」

 

引きつった顔で「痩せなきゃ」の言葉を心の中で繰り返してた私に

広田さんが言った。

 

え?

 

我に返る。

 

「は、はい!」

 

盛りだくさんな初日。

まだ続きます。

 

 

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㉑ - 私のコト

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はじめに。 - 私のコト