私のコト~私のソープ嬢時代の赤裸々自叙伝~

私の自叙伝です。雄琴ソープ嬢だった過去をできるだけ赤裸々に書いてます。

 

おじさんを見送り自分の使った個室へ戻る。

 

乱れた部屋。

シーツはぐしゃぐしゃだし、使ったタオルは何枚もその辺に置いてある。

お風呂場はびちゃびちゃだし(当たり前だけど)洗面器も転がっている。

 

はぁ…。

 

私はなんとか一人お客さんをこなした安堵感と、胸にひろがる切なさで溜息をついた。

 

シーツの上に使い終わったタオルをボンボン投げ入れる。

灰皿を綺麗にする。

使い終わったコップを持ってお風呂場へ行く。

 

端っこに置いておいた食器洗い用の洗剤とスポンジでコップを洗う。

 

ふと見ると、お風呂の洗い場の隅にコンドームが落ちていた。

さっきマットで使い終わったやつだ。

かなり焦っていて、ごみ箱に捨てるのを忘れていたらしい。

 

真ん中あたりで結んである使用済みコンドーム。

 

ひょいと摘み上げる。

精子の重みで垂れ下がる。

 

上に持ち上げ、私はそれをジッと見た。

 

(へぇ~…。

精子って、時間が経つと透明になるんだぁ…。)

 

さっきはコンドームの中で白濁しているように見えた精子

それが透明になっていることに気付く。

 

精子の動きが止まったのかなぁ…。)

 

カラダが疲れている。

そしてなんだかボーっとする。

 

私は自分がいったい何をしているのかわからない状態で、黙々と部屋を片付けていた。

 

シーツにたくさんのタオルや足ふきマットをくるんで部屋の隅にボンっと置く。

リネン室から持ってきた新しいシーツやタオルをセットする。

 

マットを綺麗に洗い直し、お風呂をサッと洗う。

スケベ椅子と洗面器をきちんとセット。

 

ふぅ…!

 

部屋をサッと見渡して、全てが揃っているか確認した。

 

さっきのおじさんを思い出す。

 

「はぁーあ!」

 

誰もいない個室で、ため息ともいえない不思議な声が出た。

 

よし。控室戻ろう。

 

私はスッとカラダの向きをかえ、急いでフロントに向かった。

 

 

フロントに行くと広田さんが待ち構えていた。

 

「おー!有里!お疲れさん!どやった?大丈夫やったか?」

 

満面の笑み。

 

「あー…。まぁいろいろありましたが…。はは。まぁ大丈夫だったんじゃないですかねぇ。」

 

へらへらと笑いながら答える。

 

「おー!そうかそうかぁ!よかったなぁー!じゃ、ここでお金渡してなー!」

 

広田さんは佐々木さんのほうに私を促した。

 

「あ、はい。佐々木さん、お願いします。」

 

おじさんから受け取った1万5千円。

そこから5千円札を佐々木さんに渡す。

 

「あ、はい。お疲れさまでした。」

 

佐々木さんはうつむきながら、目を合わせないまま5千円札を受け取り

2千円を返してきた。

 

「あ…。はい。」

 

私はまだここの料金設定がわかっていなかった。

今のやりとりで90分コースだと女の子の取り分は1万2千円なんだ、ということがここでなんとなくわかった。

 

「じゃ、控室でゆっくりしときやー!今日はもう一本いきたいなぁ~。な?有里!」

 

お客さんに一人入ることを「一本」と数える。

おちんちんを数えてるのか?と疑問に思う。

 

 

「上がりましたー!」

 

お客さんを帰し、控室に戻るときはこう言う。

 

お姉さんたちの返しはまちまち。

普通に「お疲れさまー。」の人もいれば「ようお上がりぃー。」のひともいるし、

「お上がりなさーい。」の人もいた。

 

私はこの挨拶も新鮮で面白い!と感じていた。

 

「有里ちゃん!平気やったか?」

 

すぐに話しかけてくれたのは聖子ちゃんカットの美紀さんだった。

 

「あー…。いろいろありましたがぁ…はは。なんとか平気でしたぁ。」

 

控室のおねえさんたちはみんな心配してくれていた様子だった。

 

「そうかぁー。疲れたやろ?緊張するわなぁ。でもよかったなぁ!」

 

美紀さんは笑いながらそう言ってくれた。

 

「今な、忍ちゃんがお客さんに入ってん。」

 

美紀さんが言う。

 

えっ?!

忍さんが?!

 

控室をぐるりと見渡す。

忍さんと明穂さんと裕美さんの姿がない。

 

おぉー…。

今、この上のどこかのお部屋で…

 

いろんなコトが行われているんだーー!!

 

想像するとなんだか不思議だ。

少しだけ、忍さんのことが心配になった。

 

「有里ちゃん、ここ座りぃ。」

 

たまきさんという女性が優しく言ってくれた。

 

「あ、はい。ありがとうございます!」

 

たまきさんは丸くふくよかな女性。

歳は30歳半ばくらい。

色白で黒髪を緩く頭の上でまとめている。

とてもチャーミングな顔立ちだけど、目がしっかりとした気の強さを表しているような女性だった。

柔らかなだけではない、強さを感じさせるような雰囲気をもっていた。

 

控室のお姉さんたちはとても優しく、いろんなアドバイスをしてくれた。

でもその話しっぷりはやっぱり「おばさん」だった。

近所のおばさんが甲斐甲斐しくお世話をしてくれているようなそれだった。

 

私はそれがとても嬉しく、心がふんわりとした。

 

お姉さんたちがいろんな話をしてくれている間、たまきさんは一言も話さなかった。

聞いているような聞いていないようなそぶりで、ずっと漫画を読んでいた。

 

お姉さんたちの私への関心がスッと薄らいだころ、たまきさんが私の隣でボソッと話し始めた。

 

 「有里ちゃん。お金、いくら貯めるとか目標があるん?」

 

たまきさんは漫画を胸元に置き、チラッとこちらを見ながら聞いてきた。

 

「あ、はい。決めてます。」

 

たまきさんは少し間を置いてこんなことを言った。

 

「有里ちゃん。金額を目標にしたらあかんで。期間にしぃや。いつからいつまでって。

金額を目標にしたらあかん。」

 

え?!

そうなんだ?!

 

「えーー!どうしてですか?!」

 

私はびっくりしてグイと身を乗り出してしまった。

 

「毎日お金が手元に入るやろ?最初はみんな頑張るんや。貯めようって。目標立ててな。でもだんだんマヒしてくるんや。使ってまうねん。」

 

私の手元に今1万2千円ある。

さっきまでなかった1万2千円。

この金額がもっと大きくなるんだ。

 

「あー…。なるほどぉ…。」

 

たまきさんをジッと見る。

この人もそうだったのかなぁ…と考える。

 

「だからな、金額を目標にしたらズルズルと辞められなくなるねん。

いつまでもここにおることになるで。だからな、有里ちゃん。

すぐに期間を決めや。な?」

 

たまきさんが真剣に言ってくれているのが伝わってきた。

 

金額を目標にするんじゃなくて期間を目標にする。

 

私の心にズシンときた。

 

K氏に返したい金額は700万。

この金額をどれぐらいの期間で貯められるのか見当もつかなかった。

 

でも…

今、今すぐ、期間を決めよう。

この日に辞める!とすぐに決めよう。

 

たまきさんの言葉で私はぼんやりとそう思った。

 

つづく。

 

 

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