⑱
コンドームの袋が切れずにアタフタする私。
おちんちんをくわえながら、目ではコンドームの袋とおじさんの顔を交互に見る。
えーと…
どうしよう…
どうやっても切れないコンドームの袋。
口からおちんちんを外し、右手で持つ。
なんとか右手でおちんちんをしごきながら、口でコンドームの袋を切る。
グイーー!
お湯とローションでくにゅくにゅになってしまっていたコンドームの袋。
口でもなかなか切れない。
グイーー!
焦りながらグイグイと口と手で引っ張る。
おじさんの顔をチラッと見る。と。
薄目を開けてみてるではないですか!!
は、恥ずかしいっ!!
でもおじさんはすぐに目をつぶり、見て見ぬフリをしてくれた。
のか、私のアタフタっぷりが見てられなかったのかは謎だった。
なんとか袋を破り、装着しようとする。
はぁ、破けた…
よかった…。
あとはこうやって装着するだ…ん?
口と手を使ってクルクル~と装着しようとする…が…
コンドームがいちいち引っかかってスムーズに動かない!!
クルクル~とスルスル~っとスムーズに綺麗に着けられる想定だったのに!!
またもや焦る私。
お客さんに気付かれずにコンドームを装着することが、どれだけ難しいことか実感していた。
モタモタとしながらなんとか装着完了。
スル~と上に上がり、おじさんの顔の近くに自分の顔を寄せる。
「モタモタしちゃってすいません。」
そう言いながら、右手でおちんちんを握り、挿入を促そうとする。
「いや…、ええよ。」
おじさんは私の顔をチラッと薄目を開けて見ながら、挿入を待っている様子だった。
ヌルンッ!
私はおじさんのおちんちんを自分の体内に挿れた。
おじさんは両手を上にあげ、枕を掴んだまま「うぅ…。」と言った。
私も思わず「あぁ…。」と言った。
上半身を起こし、膝をしっかりマットの溝に固定した。
両手を安定する場所に置き、上下に動く。
マットの上で騎乗位をする難しさを体感していた。
おじさんは興奮してきたのか、手を枕から外し、私のおっぱいを触ってきた。
途端、おじさんのカラダがズルズルと動きだす。
「あぁ…、あ、あの、危ない、です、。」
私は挿入の気持ち良さも微かに感じながら、おじさんを注意した。
「おぉ…、おぅ…、」
おじさんは両手でおっぱいを触っていたのを片手に変え、片手で枕を掴んだ。
腕と太ももが痛い。
挿入は気持ちよい感じがあるけど、でもだんだんとそれに勝って腕と太ももの限界がきていた。
早くイってくれぇ~!!
あんあんと声を出しながら、心ではずっとそう思っていた。
「う、うぅ…ううっ!!」
おじさんは私の腰のあたりを片手でグッと掴みながらイッた。
はぁ~…
なんとか…終わった…
私は「はぁはぁ」と息を切らせながら上半身をおじさんの上にそっと重ねる。
「有里ちゃん、お疲れさま…。」
私の耳元でおじさんが小さな声で言った。
「はぁはぁ…。いぇ…。気持ちよかったです…。」
私は嘘をついた。
微かに気持ち良さはあったけど、ほんとは手も太ももも痛かったし、おじさんが気持ち良いのかどうかが気になって仕方がなかった。
そっと私の体内からおじさんのおちんちんを抜いた。
精子の入ったコンドームをそっと外す。
おじさんは両手を上にあげたまま、天井を見つめたまま、「ふぅ~…」と息を吐いた。
カラダを流しお風呂に入る。
ぽつぽつと話すもやっぱり会話ははずまない。
お風呂からでて、丁寧にカラダを拭く。
ベッドにかけてもらい、お茶を出す。
なんとか話そうとするけど、終始静かな雰囲気が続く。
おじさんもさっきのマットの時のあれは何だったんでしょう?な態度に戻ってしまった。
暗い。
何度も「ふぅ…」とため息を漏らす。
肩はまたがっくりと落ちている。
「タバコ、ええか?」
おじさんは私をチラッと見ながら聞いてきた。
「あ、はい!どうぞ。」
なるべく明るく、なんとか突破口を見つけようと必死な私。
そんな私におじさんは見事に応えてくれなかった。
やっぱり…。
マジでタイプじゃなかったんだ…。
マットでもモタモタしちゃうし、全部がぎこちないし…。
満足させてあげられてないなぁ…。
はぁ…。最初のお客さんがこれじゃあ…
落ち込むわぁ…。
私はだんだんと気持ちが沈んでいっていた。
「はぁ…。」
おじさんはタバコを吸いながら大きな溜息をついた。
そしてゴロンとベッドに横になった。
私はすかさず灰皿をおじさんの使いやすい場所に移動した。
もういいや。
どうにでもなれ。
聞きたい事素直に聞いてやれ!
怖くて聞けなかったことを聞いてみようと思った。
もう半ばやけくそだった。
「あのぉ、ずっと溜息ついてますけど…。そんなに私ダメでしたか?」
聞いちゃった!
答えるの大変じゃん!
「そうだよ。」って言いづらいじゃん!!
それにその答え聞いたら、私めちゃくちゃ落ち込むじゃん!!
なに聞いてんの?!
もーー!!
聞いた後で後悔してる私がいた。
でも聞かずにはいられなかったのだ。
おじさんは「え?」の顔をして私を見た。
「いや…。ちゃうねん…。」
肘を立て、頭を支えながらタバコの煙をゆっくり吐き出し、おじさんは言った。
「ちゃうねん…。あんな、今日な…。」
ゆっくりとうつろな目で話すおじさん。
「はい。何かあったんですか?」
先を促す私。
「おぅ…。今日な、1000万の損失を出してしまったんや…。」
え?
え?
1000万の損失?
今日?
えーーーーー?!
で?
今ここ?
今ソープ?!
えーーーーーー?!
私はいろんな事に驚いていた。
「えっ?!あー…そう…だったん…ですかぁ…」
これしか言えなかった。
「だから、有里ちゃんがダメだったとかやないで。初めてのお客なんやろ?
ごめんやで、こんな感じで。はぁ…。」
いや。
いやいやいやいや。
いいっす。
むしろ1000万の損失出しておいて、人を気遣えるおじさんに会えたことがよかったっす!
「いえいえいえ!そうだったんですねぇ…。それは…、そう…なりますよねぇ…。」
この時間で私がおじさんにしてあげられることはなんだろう?
少しでも“何か”にならないか。
そんな到底無理なことを私は考えていた。
「あの…。何かして欲しいことってあります?」
聞いてみた。
多分ないだろうと思いながら。
「え?…そうやなぁ…。」
「あ!例えばマッサージとか?!」
おじさんは「ふふ」と笑った。
「じゃあ…腕枕してええか?添い寝してくれるか?」
「はい!しますします!」
おじさんは私に腕枕をした。
狭いベッドに二人並んでくっついて横になる。
おじさんは私の腕やお尻のあたりを目をつぶりながらやさしく撫でた。
もう一回するのかな…。
時間も残り僅か。
詩織さんに言われた通りに聞いてみた。
「どうします?もう一回…しますか…?」
おじさんはつぶっていた目を開けた。
「え?!もう一回?!無理無理!」
笑いながら言った。
「このままでええよ。なんか落ち着くわぁ…。」
私はその一言が聞けたことに満足していた。
時間がきた。
「そろそろ時間です。着替えましょうか?」
その言葉を聞いて、おじさんはまた溜息をついた。
「はぁ…。そやな…。」
胸が痛んだ。
この後おじさんは現実に向き合わなければいけないんだ。
静かに着替える。
洋服の衣擦れの音だけが個室に響く。
「よし!行こか。」
おじさんが両手を両膝の上にパンッと乗せて立ち上がる。
「はい!いきましょか!」
おじさんの腕をとる。
グイッと腕を組む。
ギュッとくっつく。
私にできることなんてこれくらいだ。
がんばって。
がんばってね!
これからのおじさんの時間を想像してしまう。
なんにも知らないのに。
なんにも知らないのに、心の中で何度も「がんばって!」と繰り返してしまう。
階段を下り、お別れの時間。
「ありがとうございました!!がんばってください!」
もう一度ギュッとカラダをくっつけて言う。
おじさんは照れたような笑顔で
「おう…。有里ちゃんも頑張ってや。またな。」
と言った。
後ろ姿を見送る。
ちょっとだけ切なくなった。
小娘有里のデビュー戦。
まずまずのスタート。
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