私のコト~私のソープ嬢時代の赤裸々自叙伝~

私の自叙伝です。雄琴ソープ嬢だった過去をできるだけ赤裸々に書いてます。

 

広田さんについて、受付に行く。

 

「まず呼ばれたらスピーカーに向かって『はーい!』って返事しぃや。受付に聞こえるようになってるからな。そしたらお客さんにつく準備を始めて、5分以内には控室の外に出るようにな。で、階段の陰で待機や。」

 

受付に座っている佐々木さんが私のことをうつむき加減でチラッとみた。

 

「そしたら、ボーイの一人がそこまでこういうチケットを持っていくから。

ここに何分コースか書いてあるしな。」

 

受付の横で説明を受ける。

佐々木さんは下を向いたまま、広田さんの話を頷きながら聞いていた。

 

90分コース。

 

広田さんの持っているチケットにはそう書かれていた。

 

え?!

90分?!

最初から90分ですか?!

 

胸のドキドキが大きくなる。

 

「あの…。90分ですか…?」

 

おそるおそる聞いてみる。

 

「お?そうやで!90分が一番楽なんやないか?」

 

広田さんが軽く言った。

 

えーーーー?!

90分が一番楽?!

どういう理由ですか?!

始めて会う人といきなり2人きりで90分!!

それだけでも大変なのに、身体洗ってお風呂入ってマットもするんですけど?!

 

私はお客さんと対面することが現実味を帯び始めた途端、急に『大変なことをしてしまった!』と思い始めた。

 

「いや…。えーと…。大丈夫…ですかねぇ…。」

 

遠慮がちに聞いた。

弱弱しい声で。

 

「どうした?!有里?急に怖なったか?みんなそうやで。大丈夫やって。初めての子やって言うてあるから。な?」

 

お客さんには初めての子だと言ってくれてると聞き、少しだけ、ほんの少しだけ安心した。

 

「じゃ!いくか?!頑張れや!」

 

広田さんはニコニコとしながら私の背中をポンと軽くたたいた。

 

 

「大丈夫やから…。頑張りぃ…。」

 

え?

え?え?

何か?

 

と聞き返したくなるような声で佐々木さんが言った。

そんな蚊の鳴くような声でも、佐々木さんが声をかけてくれたことが嬉しかった。

 

「はい!行きます!」

 

階段に向かって歩き出そうとしている私に広田さんが声をかけた。

 

「お!ちょっと待ち!お金の話忘れとった!」

 

意気込んで行こうとしてたのにぃ…と思ったけど、ここは重要なことだ。

私は間違えないようにしっかりと聞いた。

 

*解説*

ソープランドでは『入浴料』と『サービス料』が発生します。

お客さんは『入浴料』をフロント(受付)で払い、『サービス料』を個室で女の子に直接払うことになっています。

(私が働いていた時点での雄琴での話です。システムが違う場合もあります。)

 

入浴料は受付で支払い済みなので、サービス料を個室で頂く。

コースによって値段が違うので気を付けなさい、と説明を受ける。

 

50分の場合はサービス料一万円。

70分の場合は1万2千円。

90分の場合は1万5千円。

(*料金ほとんど覚えてないので大体の金額を書いてます。)

 

接客が終わり、お客さんを帰したら受付に行って頂いた金額からそれぞれのコースによって違う金額の雑費をお店に渡す。

 

雄琴では女の子6:店4の取り分になっているようだった。

そしてお店側にとられる金額は、指名であれば少ない金額になるらしい。

 

「ま、すぐにわからなくてもええわ。ちょっとずつ覚えたらええ。じゃ、お客さんにお金もらうのだけは忘れるなよ。」

 

「はい!行ってきます!」

 

私はさっき習ったことを思い出し、脳内でシュミレーションしょうとした。

 

が。

 

緊張しすぎて全くできなかった。

 

階段の陰でお客さんが来るのを待つ。

髪を整えてみたり服を整えてみたりしながら。

 

手から汗が出てきた。

心臓の音がドキドキからバクバクに変わっている。

こめかみの血管のドクドクまでわかるくらい。

呼吸が早くなる。

 

深呼吸。

 

落ち着け。落ち着け。

大丈夫。大丈夫。

 

何度も自分に言い聞かす。

 

と、その時、廊下に静かな足音が聞こえる。

 

来たっ!!

バクバクバクバク…

 

 

目の前にお客さんの姿が表れた。

 

「い、いらっしゃいませ!!お二階へどうぞ!!」

 

なんとか笑顔で挨拶をした。

 

「あぁ。よろしくね。」

 

低いトーンの声。

 

濃い紺色の少しだけよれっとしたスーツ。

白いワイシャツに無難な柄のネクタイ。

黒縁の眼鏡をかけ、白髪交じりの髪の毛は綺麗にセットしてある。

少しだけお腹が出ているけど、太っている感じはない。

 

そんな「おじさん」が私の最初のお客さんだった。

 

 

(はぁ、汚い感じの人じゃなくてよかったぁ…。)

 

緊張しながらも、そんなことを思っていた。

 

いきなり腕を組む勇気がなく、そのおじさんの腰のあたりに手を添えて二階に上がった。

 

ガチャ。

 

ドアを開けて「どうぞ」と促す。

 

 

「上着お預かりします。」

 

「ああ。ありがとう。」

 

「ベッドの上にお座り下さい。」

 

よし。

ここまでは完璧だ。

 

次!

 

私は上着を掛けおわるとスッとベッドの方に向かって正座になり、三つ指をついた。

 

「有里と申します。よろしくお願いします。」

 

詩織さんのように美しくはできなかったかもしれない。

でも、、、

 

できた!!

 

「よろしくね。え?なに?あ…り…?あり?」

 

「あ!そうです!『あり』です。」

 

「珍しい名前やなぁ。どんな字?」

 

「有限の有に里(さと)です!」

 

「へー。もちろん本名やないやんな?」

 

「そりゃそうやないですかぁ!」

 

「そりゃそうやなぁ。あはは。」

 

話しが盛り上がりそうになっていた。

 

あれ?

何か忘れているような気がする。

なんだっけ?

 

「あーー!!お風呂入れてきます!忘れてました!すいません!!

あ!!飲み物も出してません!!ほんとにすいません!!」

 

慌てる私。

 

「おー。えーよえーよ。ゆっくりでえーよ。初めてなんやって?」

 

慌ててお風呂にお湯を入れに行ってる私にお客さんは声をかける。

 

「そうなんです!手際が悪くてすいません!ほんと、何にもわかってなくて…」

 

「へぇ…。そうかぁ。」

 

そのおじさんは優しい声をかけてはくれているけど、とても暗い感じがした。

そこがすごく気になった。

 

「お飲み物はどうされますか?」

 

「あぁ…。じゃお茶で。タバコここの吸うてもええか?」

 

お茶を出し、おじさんのそばの床にペタンと座る。

 

「なんや。床やなくてこっち座ったらええやんか。」

 

おじさんはベッドをポンポンと叩いた。

 

「あ、ありがとうございます。失礼します。」

 

おじさんは小さく「うん。」と言いながら静かにタバコを吸っていた。

 

えーと…

何を話そうか…

えーと…

 

あぁそうか…きっとこの人は私のことがタイプじゃなくてガッカリしてるんだ…。

だからこんなに暗いんだ…

どうしよう。

 

「ふぅ~…。有里ちゃん?だっけ?は、どうしてこんなところで働こうと思ったわけ?

やっぱりお金のため?」

 

タバコを大きく吐き出しながらおじさんが唐突に聞いてきた。

 

「あー…、そうですね。ちょっとお金が必要で。でも、それだけじゃないとこもありますけど!」

 

私は明るく言った。

なんとか気に入ってもらえないかと思っていた。

 

「へぇ…。お金…なぁ。ん?それだけやないって?どういうことや?」

 

「まぁなんというか…。興味があったんです。こういうお仕事に。で、最初のお客さんです!」

 

私はおじさんの肩と太ももにポンと軽く触れた。

 

「ほぉ…。そうかぁ…。」

 

相変わらずおじさんは暗い。

なんとかこの90分内で気にいってもらわなければ。

なんとかこの90分の間、満足してもらわなければ。

 

初めてのお客さんの思い出が嫌な思い出になるのは嫌だ。

頑張ろう!と私のスイッチが入った。

 

「あ、お湯溜まったみたいです。入りましょうか?」

 

「あぁ。うん。」

 

うつろな表情。

肩をがっくりと落としているような姿勢。

醸し出す負のオーラ。

 

私、そんなにタイプじゃなかったのか…

 

その姿を見て、私も肩をがっくりと落としそうになった。

けど!

頑張るんだ!90分終わるまでどうなるかわかんないもん!

 

自分に言い聞かせながら、おじさんの服を丁寧に脱がせ始めた。

 

 

おじさんと小娘有里の90分はまだ始まったばかりだ。

 

 

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