⑪
「詩織、まだ来てへんか?」
広田さんが女性たちに聞いている。
「しらんよ。そんなん知るわけないやんかぁ。だってあのひとはぁ…。」
「いつも来てるかどうか知らんしなぁ。」
女性たちはやっぱり文句ともとれるような言い方をしていた。
「もう来てもええ頃やねんけどなぁ。」
広田さんは女性たちの文句ともとれるような言いっぷりを全く気にしてないように
呟いた。
「おはようございまーす。」
ドアが開く音と共に、小さな声が聞こえた。
「おぉ、来たでー。」
広田さんはドスドスと控室から出て行って、大声でしゃべりはじめた。
「詩織ー!遅いやないかぁ。新人さん待っとるでー。今日は頼むわなー。」
来た!!
詩織さんだ。
どんな方だろう?
厳しいかな?
怖いかな?
ドキドキドキドキ…。
「いつもと同じ時間やないのぉー!何言うてるん?!支度するから待っとってー!あと15分後位に部屋に来てやー!」
「おー。わかったわー。」
バタバタと音を立てて詩織さんは個室へ行ってしまったらしい。
はぁ…。
会えないのか…。
「じゃ、有里と忍は15分後位からはじめるからなー。うーんと…。二人一緒でええやろ?一緒にやっちゃえばええやろ?」
え?
えっと…研修でどんなことをやるのかまったくわからないんですけど…
一人のほうがいいのか、二人だとどんな感じになるのか…
全くわからないんですけどっ!!
私と忍さんはまた顔を見合わせた。
二人とも「え?どうする?」の顔だった。
広田さんは聞いておきながら全く返事を待たずに
「詩織に言うてくるわー。二人一緒にやるでーってなー。ゴハン食べるなら食べておきやー。」
と、またドスドスと行ってしまった。
ポツンと残された私と忍さん。
さっきまでバタバタと先輩女性たちが出勤してきていた控室は、いつのまにかみんな個室に準備に行ってしまったため誰もいなくなっていた。
「えー…どんなことするんだろうんねぇ…」
「ねー…二人一緒ってどうなんやろねぇ…」
「しかもあと15分後って言ってたよね…?ゴハン食べられるわけないじゃんねぇ…」
「…うん…。」
控室の隅にちょこんと座る私たち。
呼びに来るまでの時間がすごく長く感じた。
ドスドスドスドス…
「あー…来たみたいやねぇ…」
「うん!頑張ろうね!」
憂鬱そうな忍さん。
そんな忍さんとは対照的に、私はこれから始まる時間に思いっきり緊張しながら思いっきりワクワクしていた。
「もう行くでー!」
階段で二階に上がると、二階部分のちょうど真ん中あたりに出るようになっている。
目の前にズラーッと並ぶ個室と、階段を上がった左右にも個室が数個ずつあるつくりになっている。
右手の一番奥、右側が詩織さんの個室だ。
コンコン。
「詩織ー!入るでー!」
広田さんが大声で呼びかける。
「はーい。どうぞー。」
少し低めの落ち着いた声。
私はドキドキしすぎて走り出したいくらいだった。
「よろしくお願いします!有里です!!」
「よろしくお願いします…忍です…。」
テンションの全く違う二人。
その様子を見てか、詩織さんは苦笑いをしていた。
詩織さんはすらりとした長身の女性だった。
長い手足、綺麗な黒いロングストレートな髪、細い黒縁の眼鏡をかけている顔は
派手ではないけど整った目鼻立ちをしていた。
歳は35歳くらい。
落ち着いた才女の雰囲気を醸し出している。
「よろしくね。二人一緒なんてええのん?大丈夫なん?広田さん、急に決めてしまうやろ?大変やなぁ。」
詩織さんは苦笑いをしながらハキハキとそう言った。
「え?!大丈夫やろ?詩織なら。なぁ?!よろしく頼むわ!出来るだけ今日デビューさせてしまいたいからなぁ。」
広田さんはせかせかとまくし立てる様に言う。
「まーそりゃそうやな。早い方がええやんなぁ。待たされたらもっと緊張してしまうやんな。じゃ、早いとこやろか。」
詩織さんはさっぱりとした話し方をする人だ。
一見厳しそうに見えなくもないけど、この人は絶対優しい人だ。と感じた。
「じゃ、まず部屋に入るところからな。」
さっそく詩織さんの研修が始まった。
女の子は一階の階段の前で待機する。
お客さんを階段の前で出迎えて、「こちらへどうぞ♡」と二階へ案内をする。
この時、腕を組むなり腰に手を添えておいたりの軽い密着があると良いと教わる。
「で、ドアを開けて先にお客さんをお部屋に入れるんやで。」
ドアを開けると低い段差が部屋の入口にあり、スリッパを脱ぐようになっている。
(女の子は室内用のヒールを脱ぐ)
個室に入ってすぐに目についたのはは左手側に広がる浴室。
一番奥にそんなに広くはない、シルバーの浴槽。
左手側の壁に立てかけてある、空気がパンパンに入っている海水浴に使うものですか?と聞きたくなるようなシルバーのマット。
(うわっ!あれがマットプレイで使うやつかぁ!)
私は目を見開いてマジマジと眺めていた。
さほど広くない浴室の真ん中には小さめのお風呂用マットが敷いてあり、その上には金色の真ん中がえぐれている椅子が置いてあった。
(お!!あれがスケベ椅子ってやつだ!!)
私は本や映像で見ていたものが目の前にあることに軽く興奮していた。
部屋の入口の正面にはゴワゴワとした薄茶色の絨毯が敷いてあり、安っぽい茶色のレザー風のマットが引いてあるベッドが壁際にぴったりとくっつけて置いてある。
そのレザー風のマットの上に、何回も洗濯したであろう色褪せのあるゴワゴワした緑色のタオル地のシーツ。
そのベッドの脇には少しのスペースをあけてガラス面の小さなテーブルが置いてある。
テーブルの上には四角い大きめのカゴが置いてあり、その中にはいろんな銘柄のタバコがぎっしりと入っていた。
このベッドの上にお客さんと座り、お話をしたり、お茶を飲んだり、タバコを吸ったり、そしてSEXをしたりするんだなぁ…となんとなく考えていた。
部屋の隅には小さな冷蔵庫。
その冷蔵庫の上にはウイスキーとブランデー、そして綺麗なブルーのグラスが二つとコルク地のコースターが置いてあった。
その隣には小さな二つの引き出しのついたハンガーラック。
ハンガーが数個かかかっている下には籐製の脱衣カゴが置いてある。
割と狭いんだな…
そう思いながらも、その狭さと安っぽさと古びた感じが余計に私の何かをそそった。
「で、上着があればお預かりしてハンガーにかけて、お客さんにベッドの上に座ってもらってから…」
詩織さんはベッドの方に向かってサッと正座をし、綺麗に三つ指をついた。
「こうやってご挨拶をするんやで。『詩織です。よろしくお願いいたします。』な?」
おーーー!!
三つ指!!
私はすごく綺麗な仕草の詩織さんに感動していた。
「で、ここからは順番にお客さん役になってもらってまずは受けてもらうわ。
お客さん役じゃないほうの子はちゃんと見てるんやで。」
詩織さんは逐一丁寧に説明をしながらすすめていってくれた。
まずはお風呂にお湯をため始めること、飲み物を聞くこと、お風呂のお湯がたまるまでお話ししたりすること、お湯がたまったらまずはお客さんのお洋服を脱がせてあげること、パンツまで脱がせたらもう一度座らせて股の上にタオルを置いてあげること…などなど。
説明しながら私の服を丁寧にゆっくり脱がせてくれる。
適度な身体の密着をつくりながら。
うわぁ…これはドキドキするしたまんないなぁ…
私はお客さんの気持ちを味わう。
この後始めることを想像してワクワクする。
「脱がせた洋服は丁寧に畳むんやで。」
詩織さんは私の服を丁寧に扱い、綺麗に畳んで脱衣カゴに入れた。
真っ裸にされた私はタオルを一枚渡されベッドの上に座らせられた。
忍さんが部屋の隅で見てるのでなんだか気恥ずかしい。
「で、今度は私たちが服を脱ぐんやけど、後ろ姿を見せるとええで。
絶対お客さんは見てるからな。ゆっくりだけど、ゆっくり過ぎず、ブラとパンツを脱ぐときはわざとらしくならない程度にもったいぶってな。」
詩織さんは後ろを向いたまま、素晴らしく女性らしい仕草で服を脱いだ。
「じゃ、有里ちゃんこっち来て。」
スケベ椅子の上に緑の浴用タオルが敷いてある。
その上に私はおそるおそる座った。
詩織さんは私の目の前で正座をしている。
大きめのスポンジを手に持ち、洗面器にお湯を少し入れ、ボディソープを入れて泡立てている。
「じゃ、身体の洗い方ねー。」
詩織さんは私の左手を持った。
「まず手のひらをこうやって洗うやんか、で、そのまま腕にいくんやけど…」
手のひらを丁寧に優しくスポンジで撫でられ、その後ぐいと腕をとられたかと思ったら…
いつの間にか私の手のひらの中には詩織さんの形の良いおっぱいがあった。
「こうやって胸を触らせながら腕を洗うんやで。で、このまま脇。」
プロだ…。
たったこれだけの事なのに、詩織さんのやることがあまりにも自然で思わずそう思ってしまった。
そのあと右手を同じように洗い、その後背中へと移っていく。
「で、こうやって膝立ちになって…」
突如膝立ちになった詩織さんはいきなり私に抱き着いた。
「背中はこうやって抱き着きながら洗うんや。」
ち、近い…
私がびっくりしながら硬直しているのを知った詩織さんは抱き着きながら私の顔をチラッと見た。
ほっぺとほっぺが今にも密着しそうな距離だ。
「ふふっ、どうしたん?大丈夫?」
その距離で見る詩織さんんがあまりにも可愛らしくてドキドキしてしまう。
「あ…はい…なんかびっくりしてしまって…」
照れながら言う私をみて詩織さんはケラケラと笑った。
「ちゃんと覚えてもらわなあかんねんでー!まだまだこれからやねんからなー!」
その後詩織さんは、お腹、足、足の指一本一本を丁寧に洗ってくれた。
「じゃ、おちんちんねー。」
いよいよ股間の洗い方。
私にもこの時だけおちんちんがあればいいのになぁ…
そうすればもっと男の人の気持ちがわかるのになぁ…
そんなことを考えていた。
研修はまだまだつづく。
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