私のコト~私のソープ嬢時代の赤裸々自叙伝~

私の自叙伝です。雄琴ソープ嬢だった過去をできるだけ赤裸々に書いてます。

 

夜7時過ぎ。

広田さんに声をかけられ、隣の部屋に来た女の子を紹介された。

 

「有里ー!出てきてー!」

「はーい!」

 

廊下に出ると、少しうつむき加減の女性が大きな荷物とともに立っていた。

 

黒縁の眼鏡をかけ、黒とグレーの地味なコーディネートの服を着ている黒髪の細身の若い女性。

顔はかわいいといえなくもない様な、特に印象に残る様な感じではない顔つきだった。

 

「この子は有里。今日来たんや。有里、この子は忍。岐阜県から来たんやでー。なかようやってやー。」

 

その忍さんと言う女性は紹介されてもちょこっと顔を上げただけでまたうつむいてしまった。

 

「よろしくお願いします!有里です!」

 

私はその様子を見て、必要以上に明るく挨拶をしてしまった。

きっと何か事情があってきたんだよなぁ…と至極当たり前のことをアホみたいに考えていた。

ソープランドにくるなんて、事情があるに決まってるのに。

 

「はい。よろしくお願いします。」

 

忍さんはかろうじて目を見ながら挨拶をしてくれた。

 

「お腹空いたやろ?3人で焼き肉行こうや。な?」

 

広田さんは上機嫌で車を走らせた。

 

焼肉屋ではほとんど広田さんがしゃべっていた。

 

雄琴のことをみんなは「雄琴村」と呼んでいること。

雄琴村には今だいたい50件ほどの店があること。

昔はもっと活気があって、店ももっとたくさんあったということ。

雄琴村の中にはスナックもカラオケも団地もあるんだということ。

 

「もっと食べろー。もっとビール飲むか?明日からがんばってもらわなあかんからな。

今日はがんがんいけよー。」

 

忍さんはお肉とゴハンをもりもり食べていた。

細身の体に似合わない食べっぷりだった。

 

「あ、そーや。明日は午前中に病院に連れていかなあかんねん。」

 

広田さんが突然そう言った。

 

ソープに務めるには病気にかかってないかの血液検査と薬物を使用してないかを調べるためのおしっこの検査が必要になるらしい。

 

 

この焼き肉に連れてくる前に病院へ連れて行った方がいいんじゃないかなぁ…

もし明日、薬物反応とかでたらどうするんだろう?

 

私は心の中でそう思っていた。

 

「じゃ、明日は10時には病院に連れてくから、その時間には降りてきてくれよ。

で、その後は研修。研修はお店ベテランの女の子にお願いしたらからな。

研修がうまいこといって、お客さんもよさそうな人がきたらデビューしてもらうしな。」

 

病院、研修、デビュー。

割と忙しい日になりそうだ。

 

寮に戻り、お部屋に帰る前。

私は忍さんに声をかけた。

 

「忍さん、明日緊張するねぇ。」

 

忍さんは顔を上げて私を見た。

 

「ほんま。嫌やなぁ…。有里ちゃんは元気やね…。」

 

忍さんは今にも泣きだしそうな顔をしていた。

そして全身から『本気で嫌だ』の雰囲気を醸し出していた。

 

あぁ…。

この人は本気で本気で嫌なんだ…。

 

私はこの時、忍さんと私はここにいる感覚が決定的に違うんだと感じていた。

 

「おやすみ…。有里ちゃんがいてくれて少し安心したわ…。明日ね。」

 

急に忍さんが可愛いことを言い出したのでちょっとびっくりした。

 

「あ…はい!おやすみなさい。私も忍さんが来てくれて心強いです!おやすみなさい!」

 

いろいろあった一日。

初めての事ばかりで疲れたのかすぐに眠りについた。

 

 

朝。

緊張のせいなのか6時に起きてしまった。

 

落ち着かない。

本も読む気にならない。

テレビをつけてもそわそわする。

 

あ!そーだ!

 

私は思い切って雄琴村の朝の散歩に出た。

 

雄琴村が動き出すのはお昼の12時からだ。

女の子の出勤は12時~夜中の12時まで。

(むかーしむかしは24時間営業とかだったらしいです。

風営法で夜は12時までとなったらしい。24時間営業って…(-.-))

 

朝のこの時間ならきっとだれもいないはず!

誰に気兼ねなく雄琴を探検できる!

 

そう思い外にでる。

 

ひんやりとした空気。

誰もいない、ネオンも点いていない雄琴村。

 

私のいる「花」は雄琴の入口付近。

ここから奥はどうなってるの全くわからないし、どれだけこの道がつづくのか、どれだけの店が建っているのか全然見当もつかない。

 

雄琴の入口は3つ。

道が3つに分かれている。

シルクロード、ゴールデンゲート、川筋通り。

 

その3つの道沿いに所狭しと店が乱立している。

 

私はシルクロードから奥へ奥へと進んでいった。

お城のような外観の店、シックなレンガ作りの店、秘法館の外観のような店、

まるで高級ブティックのような店…

いろんな外観のお店があった。

でも、全てに共通しているのが「古さ」と「うらびれ感」だった。

 

しばらく行くと団地のような建物が3棟建っていた。

 

あ…ここ、昨日広田さんが団地もあるって言ってたところだ…

この雄琴村の中でずーーーっと生活してるひとがいるんだ…

この中からめったに出ない人もいるんだろうなぁ…

 

そんなことをしみじみ感じながら歩く。

シルクロードを奥まで進むとぐるりと回りこむ。

そのままゴールデンゲートに続く道に繋がっていた。

 

雄琴村の入口付近まで戻るとフラフラと歩く女性がいた。

 

華やかな服装。

長い黒髪。

明らかに酔っぱらっている歩き方。

 

ん?

どうしたんだろう?

 

様子を伺っていると一人の男性がその女性を追いかけてきた。

 

派手なシャツにきちんとセットされた明るい茶色の髪。

胸元は大きくひらかれていて、そこには大きなコインのネックレス。

 

「待ってくださいよぉ~。そうじゃないんですよぉ~。」

 

その男性はしきりにその女性の機嫌をとろうとしている。

 

「もう!離してやぁ~!もうええねん!!もう来んからええねん!!」

 

その男性が掴んだ腕をフラフラしながらも振りほどこうとしている。

 

「違うんやって!な?戻ろう。な?」

 

そう言いながらその男性は女性を抱き寄せた。

 

え?!

ちょっと!!

朝の6時過ぎですよ?!

そして雄琴村の中ですよ!

どういうことですか?!

 

シーンと静まり返っていた雄琴村の中で急に繰り広げられたその光景に、私はかなりびっくりした。

 

気付くとその男性と女性はキスをしていた。

かなり濃厚な。

 

「もうええやろ?な?戻ろう。」

 

優しく頭を撫でながらクイと身体を優しく押す。

女性はトロンとした目で男性を見つめ、コクンと頷いた。

 

なに?!

これなに?!

何が起こってるのですか?!

 

私は軽くパニックになりながらその二人がどこに向かうのか見守った。

 

二人が入って行った場所の看板にこう書いてあった。

 

『スナック トキ』

 

ここか!!

広田さんが言っていたスナック!!

ん?

でも、男性側が接客していたように見えたな…

後で広田さんに聞いてみよう。

 

かなり衝撃的な、さわやかとは到底言えない朝散歩を終え、私は寮に戻った。

 

10時。

広田さんと忍さんと病院へ。

 

「これから行く病院は雄琴村の女の子がみんな行くところやから安心してや。

よく知ってくれてるお医者さんやからなー。」

 

小さな清潔感のある個人病院。

先生はおじいちゃんでとても優しかった。

 

おしっこをトイレでとり、血液検査を受ける。

 

「おしっこの検査の結果はすぐ出るしな。血液検査の結果は店に送るわー」

 

先生が優しく言った。

 

滞りなく終了。

 

帰りの車で広田さんがこんな話をしてくれた。

 

「トイレに窓があったやろ?そこに格子がはめてあったのみたか?」

 

確かに窓があってその窓の外には格子がはめてあった。

 

「おしっこを買う女の子がおってなぁ。売ってる奴もおるってことやねんけどな。

その売り買いをトイレの窓からやんねんなー。それを防止するためにああなってるんやでー。」

 

お?!

おしっこを買う?売る?

へ?!

 

「薬やってたら働けないやろ?でも薬を買うために仕事をしたいんや。その為におしっこ買うんやで。」

 

すごい衝撃だった。

そしてすごいゾクゾク感だった。

 

「広田さんはそういう子に何人も会ってきたんですか?」

 

気になって聞いてみた。

 

「うーん…そやなぁ…まぁ…今もなぁ…ごにょごにょ」

 

え?

今も?

 

途端に口が重くなった広田さんの様子をみて、それ以上は聞かない方がいいのかなと察知した。

 

何かあるんだな…

 

少し嫌な予感がしたけど、この場所にきたばかりなんだからそりゃ不安にもなるよね、とその嫌な予感を打ち消していた。

 

「あ!そーだ!」

 

私はふと今朝の事を思い出す。

 

「広田さん、雄琴村にスナックがあるって言ってたじゃないですかぁ?」

「おー!トキなぁ。あそこはできるだけ行かんほうがええなぁ…。」

 

おー…

そうなんだ…

 

「えー…と、どういうお店なんですかねぇ?」

「ん?有里はスナック好きなのか?」

「いや、そういうわけじゃないですよ。ただ聞きたいだけです。」

「あそこはまぁ、男の子が接客するお店やなぁ。」

 

いわゆるボーイズバースナック版みたいな感じの話しだった。

お店が終わるとその日の稼ぎを持って女の子たちが通ったりするお店。

もちろんボーイさんや店長さんたち男性も行くらしい。(一応スナックだからね)

 

でも、たまにそこの店の男性スタッフの取り合いがソープ嬢同士で起こったりするようで…

 

今朝見た光景はそれか…

 

私はこの雄琴村で行われてるお金の循環を思う。

切なくなるような日々だ。

でもまたもやそこにゾクゾクを感じる自分がいた。

 

 

雄琴村の向かいにある個人商店にしては大きめの薬局に立ち寄る。

 

「ここでコンドームやらタバコやら買うといいでー。配達もしてくれるしな。」

 

ソープ嬢はコンドームやローション、個室に置いておくお客さん用のタバコやお酒類は自腹だ。

お店で用意してくれるのはウーロン茶、オレンジジュース、コーラ(ペプシが主流)のみ。

ビールはフロントに言えば小瓶を用意してくれるけど、二本500円でこれも女の子の自腹。

 

「こんちはー!この子は有里。こっちは忍。今日から入ったからよろしくなー!配達も頼むと思うでー。」

 

広田さんがお店の女性に紹介してくれた。

 

「よろしくねー。えーと、有里ちゃんに忍ちゃんね。」

 

笑顔が優しそうなその女性は「顧客ノート」のようなものに私たちの名前を記した。

 

「じゃ、コンドームと…タバコは?どうする?」

 

そう言いながらドンッと白い箱を私たちの前に出した。

 

「え?これは…なんですか?」

 

何も書いてない白い箱。

大きさは25センチ四方くらい。

 

「えぇっ?!これ?あははは!これはコンドームよぉ~」

 

ケラケラと笑いながらその白い箱を開けると、ピンクのパッケージに個包装されている

コンドームがびっしりと詰まっていた。

 

うわぁ…

こんなにたくさんびっしり詰まったコンドーム…見るの初めてだぁ…

 

「これで1500円ねー。みんなだいたいこれを買うわよ。安いしねぇ。たまーにこだわりのある子がいてるけどねー。もしこだわりがあるならこっちね。あと、大きさべつもあるでー。これがS、これがL、えーと…ちょっとボコボコがついてるやつもあるで。」

 

その女性はまるで野菜を売るかのようにコンドームの説明を軽やかにしていた。

 

「あと、飲み物も配達するからね。TELかけてきてもええし、ここに寄って注文してから出勤してもええからね。あとで配達するしなぁ。」

 

その時、一人の女性が店に入ってきた。

 

「あー広田さんやないの!おはようございますぅ。あれ?新人さん?」

 

すっぴんの顔にスエットの上下の茶髪の女性。

歳はだいたい30歳過ぎ。

 

「おー!そうやねん。今日からや。よろしくなぁ。こっちは雄琴のベテランや。

有里も忍もいろいろ教えてもらえよぉ。」

 

「なぁ~にがベテランよぉ~!そんなん言われたないわぁ!あははは!

二人とも、あんまり長くいたらあかんでぇ。ほんま、はよ辞めやぁ。」

 

その女性は明るく冗談ぽく言っていたが、そこにはそこはかとない寂しさみたいな匂いが漂っていた。

 

「おねえさん、タバコがねぇセブンスターと、マイルドセブンと、えーと、マルボロとぉ、あとコンドームとポカリスエットの大きいやつねー。何時ころ来てくれる?

え?ほんと?!あはははは!やだぁ~!昨日来たお客がさぁ…」

 

お店の女性と気さくに話す風景。

ソープ嬢とソープ嬢をお客にもつお店。

 

私はこれからここのお客になるんだ。

私もいつの間にかここでこうやって、何気なくソープ嬢として会話をするようになるんだろう。

 

なんだか私はそのソープ嬢のお姉さんが格好良くみえてしまっていた。

 

私も早くあのくらい普通にここで会話できるようになりたいなぁ。

 

そんなことを考えていた。

 

寮に戻ると先輩たちが出勤してきていた。

 

「おはようございまーす。」

 

いろんなところから聞こえるけだるい女性の声。

 

「じゃー有里と忍は研修やからなー。ちゃんと紹介するのはその後でええやろー。」

 

「広田さん、研修は誰がやるん?」

 

先輩女性の一人が広田さんに聞いてきた。

 

「お?研修か?詩織やで。」

 

控室の女性たちが一斉にざわついた。

 

「やっぱり詩織さんかぁ。まぁそうやろなぁ。」

「まぁねぇ…」

「そうやろなぁ。」

 

だれも悪口は言ってないものの、なんとなくみんなもの言いたげな反応だった。

 

へぇ…

なんだろ?

詩織さんはなんだかみんなによく思われてない人なのかなぁ…

その人に研修を受けるのかぁ…

 

忍さんとちょこっと顔を見合わせた。

 

いよいよこれから研修が始まる。

 

 

⑪ - 私のコト